呼びかけ一覧
2024-05-29
「遺伝子組換え食品(種子植物)の安全性評価基準の改正に関する審議結果(案)について」に対する意見
2024-03-25
日本有機農業研究会の「食料・農業・農村基本法」改正へ向けての意見(2023年 3 月 29 日)
農水省との意見交換会 日有研提出意見(補足版)
2023-12-14
「あきたこまちR」などの放射線育種(特にイオンビーム使用)の米への全量転換問題に関連して
「あきたこまちR」などの放射線育種(特にイオンビーム使用)の
米への全量転換問題に関連して
2023年12月12日
NPO有機農業推進協会
有機農業は、自然と共生して環境を守り、土に根ざした作物・家畜を育み、安全で質の良い食べ物の生産をめざす世界共通の農業運動である。地域それぞれの農業の伝統知と科学技術の統合により行うが、自然の摂理に反する再生不能な資材の投入や行き過ぎた科学技術を避けて行われる(IFOAMの有機の定義より)。
このような理念・原則で生産された農産物に多くの国民は、「みどりの食料システム戦略」で有機農業の拡大が打ち出されたことに期待を寄せている。
有機食品の認証基準である「有機JAS」では、「電離放射線」の使用については、加工食品や飼料のところで、放射線を照射して殺菌・殺虫・発芽・熟度抑制などの「食品照射」としての使用を禁止している。
放射線を「育種」(品種開発)の過程で使う「放射線育種」は、明瞭に禁止されてはいないが、食用作物への利用は、食品照射の禁止と同様に、本来は、禁止技術とされるべきである。日本は率先して育種にイオンビーム使用を行い、世界に先駆けて実用化をめざしているが、だからこそ、率先して、日本の有機JAS基準では、本来の有機農業の理念・原則を尊重して、禁止技術と定めるべきである。
カドミウムによる米の汚染は今やごく一部地域になっている(2010年データ)。それにもかかわらず、秋田県の場合は、県が供給する種籾取扱いを「コシヒカリ環1号」というイオンビーム育種を行って遺伝子の一部の「カドミウム」「マンガン」を米中に吸い上げない米の関連品種「あきたこまちR」に全量転換し、それを「あきたこまち」と称して(内実はあきたこまちR)流通させていくという計画を進めている。
このようなイオンビーム育種による「あきたこまちR」などの品種の米の安全性は確証されていない。
このような計画は、秋田県だけではなく、他の県にも及んでいる。主食の米が、このように変えられてしまってよいわけはない。「有機基準」としてこれを認めないことは優先されるが、同時にそれ以上に、このような遺伝子を改変させた米への全量転換に対して、有機農業推進の立場から疑問を投げかけ、計画中止を呼びかけていくべきである。
次は、この問題に取り組んでいる市民団体「OKシードプロジェクト」(ゲノム編集技術の食品利用に反対し、表示義務付けを求める活動)の見解であるので、共有していただきたい。
重イオンビーム放射線育種に関するOKシードプロジェクトの見解
https://okseed.jp/radiation/position.html 2023.12.4.
農水省はカドミウム汚染対策として重イオンビームによって育種したカドミウム低吸収性品種を今後の日本の主流の品種としていく方針を2018年に示しました
[1]。秋田県は2025年から従来の「あきたこまち」から重イオンビームで育種した「コシヒカリ環1号」との交配によって作られた「あきたこまちR」へ全量転換する計画ですが、この品種の導入は全国への拡大が計画されており、秋田県のみの問題に留まりません。
遺伝子の一部の塩基が破壊されている点でこの品種開発方法にはゲノム編集に類似した懸念があり、また、この品種導入のみでは、肝心の問題であるカドミウムなどの汚染解決につながらないため、OKシードプロジェクト[2]としてその導入について見解を発表することにしました(この見解の解説は後日、追加する予定です)。
1.放射線育種及び重イオンビーム利用の放射線育種について
【ガンマ線育種の終了という事実】農水省は放射線育種が戦後長く、世界各地で行われてきたとしていますが、これまで放射線育種で使われてきたガンマ線照射施設は世界では実質的にほぼ閉鎖されており、日本でも2022年度に施設が閉鎖され、この技術は基本的に終わっています。日本ではガンマ線照射による放射線育種は後代交配種を除き、新しい品種はもう出てきません。長年にわたり公的資金をつぎ込んだ事業を閉鎖するに至った経緯を政府は何も説明していません。
【重イオンビームの問題点】今回の「コシヒカリ環1号」を作り出したのは長く使われてきたガンマ線による放射線照射ではなく、重イオンビーム照射という新しい技術です。重イオンビーム育種はガンマ線よりも一点に集中させることで、ガンマ線による放射線照射よりもはるかに高い破壊力を遺伝子に対して与えます。この技術は日本以外ではほとんど実績がなく、また安全性の科学的検証もなく、それを、あたかも世界で広く、長く実績があるものであるかのように説明するのは虚偽であり、受け入れることはできません。重イオンビームの食品への利用に反対します。
【有機認証の問題】放射線(特に重イオンビーム)を使用して育種した品種のコメを「有機」認証で容認することに反対します。
2.生産者や消費者の選ぶ権利について
・重イオンビーム育種品種への全量転換は生産者や消費者の選択権を奪うものであり、反対します。地方自治体は重イオンビーム育種でない種籾の提供を続けるべきです。
・「コシヒカリ環1号」を「コシヒカリ」、「あきたこまちR」を「あきたこまち」として流通させれば、消費者は従来の「コシヒカリ」や「あきたこまち」と区別できなくなり、選ぶことができなくなります。重イオンビーム育種の品種を従来の品種名で流通させることに反対します。
また、現状では種苗に放射線育種の表示義務がなく、生産者も基本的な情報を得ることができません。重イオンビーム育種の種子を流通させるのであれば最低限、その育種方法について表示義務を課すべきです。
・「コシヒカリ環1号」系品種はマンガン吸収に関わる遺伝子が損なわれており、ごま葉枯れ病や収量不足に陥りやすくなっています。そのような品種への全量切り替えは生産者に不要な不利益を強制することになるという点からも容認できません。
・「コシヒカリ環1号」系品種は遺伝子特許がかけられていますが、種子に特許を認めることには世界で強い批判があります。特に、種子を超えた食の支配につながる遺伝子特許には、さらに強い批判があります。自家採種も許可されず、農業のあり方に大きな制約をかける可能性が高くなります。主食である米に遺伝子特許品種を導入することに強く反対します。
3.地域のカドミウム・ヒ素汚染問題の長期的・総合的ロードマップを
・カドミウムやヒ素などの汚染源、汚染者の特定とさらなる汚染防止、汚染実態調査に基づく汚染の除去と環境の回復、そして被害地域の住民の健康調査を行い、補償を行うことが必要です。その事業の負担は汚染者負担原則に基づき、汚染責任企業が負い、国・地方自治体は被害地域の住民がその権利回復できるように支援する義務があることを再確認すべきです。
・「コシヒカリ環1号」系品種の品種許諾料、特許許諾料を農家に課すことは汚染者負担原則に反するので反対します。
・「コシヒカリ環1号」系の品種の導入はカドミウム・ヒ素の含まれる率が低い米を実現することはできても、土壌や水系のカドミウム・ヒ素汚染改善にはならず、1970年の農用地土壌汚染防止法の改定を含めて総合的な土壌汚染対策政策が必要です。
・政府・地方自治体は、汚染のより少ない地域の未来のために、汚染低減に向けた長期的・総合的ロードマップを描き、その計画を当該地域住民、生産者の参加を得て、策定する必要があります。
[1] 農林水産省消費・安全局「コメ中のカドミウム低減のための実施指針」平成23年8月策定、平成30年1月改訂)https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_cd/2_taisaku/attach/pdf/01_tec-11.pdf
[2] Okシードプロジェクトは、「ゲノム編集」をした種苗及び食品への表示の義務づけを要求すると同時に、他方、「ゲノム編集でない」と記載のある「OKシードマーク」を自主表示しようと呼びかけ、OKシードマークのロゴマークと使用規程及び使用ガイドラインを整備して提供している市民団体。https://okseed.jp/
2023-12-14
有機農業推進・みどり戦略推進に関する意見・要望
12月12日に有機農業推進議員連盟の勉強会が参議院議員会館で実施されました。
日本有機農業研究会は、特に、夏の高温下での「中干しの延長」に対する見直しを提案しています。
参考までに、同日配付した有機農業推進協会の「放射線育種(特にイオンビーム使用)に対する配付資料も紹介しておきます。
有機農業推進・みどり戦略推進に関する意見・要望
2023年12月12日 日本有機農業研究会
意見・要望の項目
1.有機農業学科・コースの整備支援や民間を含む研修制度・研修施設の整備拡充を
2.「有機農業公園をつくろう」―総合的な有機農業関係施設の設置推進を
3.「道の駅や直売所の農家の手づくり漬物が消える」― 極小規模、高齢者により伝承されている漬物文化を守れ!
4.メタン発生抑制のための「中干し長期化」は、気候変動・温暖化の状況下で、高温障害を助長か。「有機への転換」にこそ、環境支払・J-クレジットを適用すべき。
5.下水汚染の肥料利用では、有機フッ素(PFAS、PFOS)規制を
6.マイクロプラスチック使用のカプセル型化学肥料の規制を
意見・要望の詳細
1.有機農業学科・コースの整備支援や民間を含む研修制度・研修施設の整備拡充を
・農業高校、農業大学校の有機農業学科やコースの設置はたいへんよい。(日本農業新聞記事2023年12月5日「有機農業教育整備へ」より)
※R5補正予算「35 新規就農者確保緊急円滑化対策」の2-②グリーン教育推進(有機農業専攻・科目の設置や有機JAS認証の取得に向けた取組をパッケージで支援、③研修施設等の整備(技術習得に必要となる研修施設等の整備を支援)
意見・要望:
∇「有機農業」に資する本格的な農学研究、調査研究、及び教育を
各地のこれまでの有機農家の実践・成果を共有し、発展を視野にいれて有機農家等の協力を得ながら、「有機農業」に資する本格的な農学研究、調査研究、及び教育を、①大学・大学院、②各地の農業大学校、③各地の農林環境専門職大学、④農研機構、地方自治体農業研究所等において強化すべきである。そして、これらを通して、有機農業の指導者、有機農業の担い手の育成にもつなげていく。
今回の農業高校等の有機コース等の整備に関連して、次を要望する:
1)有機農業学科、有機農業コース等に、実践経験・知見のある有機農家やその有機圃場の協力がしやすくなる仕組みをつくること。
2)公立高校等に限らず、「横展開」の考えで、民間の研修機関への支援、研修施設等の整備も可能にすること。
即戦力の有機農業就農者の確保を加速させるためには多くの機会創出が重要。
例えば、日本有機農業研究会は、コロナ前には、「足立区都市農業公園」を利用した月2回の有機農業就農講座を実施していた。廃校になった農業高校を利用した研修機関の創設、遊休地と空き家利用の研修機関設置などの可能性もある。また、「日本有機農業研究会 有機農学校」の実施規程をつくり、有機農家の農場で実施していた。
ご存じのように民間稲作研究所は、学校給食の有機米導入の指導で活躍している。日常的にも稲作技術の研修施設として活動しているので、施設整備をはじめ、講師陣経費等を含めた運営経費等への支援が必要。
3)有機農業を教える人材の育成も急務である。これにも、既存の有機農業者の協力・活用の視点が必要。
4)「有機JAS取得のための取組み」では、「有機JAS取得のため」というしばりをかけないようにすること。
「有機農業の国際水準である有機JASを学ぶ」として、広く関心のある人々(消費者、検査員志望者、有機農業への転換希望者等含む)が、有機農業を「有機JAS」規格と認証制度を学ぶことを通して、有機農業への理解を深め、消費者は有機農産物等の購入に確信が得られ、農業参入や慣行栽培の農業者等にとっては、すぐに有機農業を行わなくても、有機農業への転換への足がかりになるなど、裾野を広げることになる。
2.「有機農業公園をつくろう」―総合的な有機農業関係施設の設置推進を
・日有研は、2022年に次を要望している。
∇市民・農家等に身近な「有機農業公園」や体験農場などの整備・運営
身近なところで有機農業の実践風景を見たり体験できる「有機農業公園」や体験農場などを、①自治体、②農協、生協など協同組合、③NPOなどの市民団体、民間の研究所等がつくり、運営することができるようしたり、支援すること。それにより、有機農業への理解が深まり、有機農業推進につながる。有機農業の普及拡大に向けて、公園内に有機農業の小規模の田畑を設営して、技術指導、研修、相談、農業体験、直売所、レストラン利用などが総合的にできる「有機農業公園」を各地に設置すること。
このような総合的な施設は、有機農業理解の裾野を広げることにつながる。
有機農業による管理された田畑の整備により、誰でも(農業者も消費者も)有機農業の田畑のようすをつぶさに五感で感じることができるので有機農業への理解も深まる。この田畑は、研修、農作業体験などにも利用できる。呼称は、「森里海をつなぐ公園」、「自然と農業公園」、「有機農業推進センター」など工夫する。地域の条件に合わせ、オーガニックビレッジ宣言都市での設置推進・支援も望まれる。
3.「道の駅や直売所の農家の手づくり漬物が消える」― 極小規模、高齢者により伝承されている漬物文化を守れ!
・厚労省管轄であるが、これまで届け出制だった漬物業がHACCP強化の食品衛生法改定(2018年改定)により許可制になる、この完全施行が2024年6月に迫っている。
手づくり漬物は、農家の女性たちにより受け継がれてきた。70歳、80歳以上になっても、漬物づくりはできるので、生きがいにも、健康の源にもなっている。(「梅干すや 九十にして怠らず」という句もある。)
また、中山間地域でも平地でも、農家の自給作物の活用として、農地を守ることにつながっている。農地を守り、自給度を高める観点からも、より多くの高齢者や兼業農家、小規模農家等の手づくり漬物づくりを守る必要がある。
例えば、中山間地域の根県吉賀町(旧柿木村)では、そうした手づくり漬物の生産がなんとか守れないかと思案している。これは吉賀町だけでなく、全国的な課題である。
「農家の台所で作りました」「キッチンにて手づくり」など、カリフォルニア州ではこうした表示を条件に台所での農家の加工品づくりのHACCP要件を免除しているとのことである。農水省には、アメリカの州レベルでの対応状況の詳細を調べてもらい、日本で実施可能な方法を考案して、厚労省と調整してもらいたい。
◎高齢者、小規模免除などの対応が急務である。
4. メタン発生抑制のための「中干し延長」は、気候変動・温暖化の状況下で、高温障害を助長か。「有機への転換」にこそ、環境支払・J-クレジットを適用すべき。
【理由1】 今年(2023年)の夏の異常な高温、雨不足[1]による稲の高温障害を通して、「中干し延長」は高温障害を起こしやすくすることが、有機農家の稲作の高温障害対策から浮かび上がった。
高温障害の対策とメタン発生抑制の二つを同時に解決するのは、「有機稲作の実施・転換」である。
・経験を積んだ有機農家の高温対策は:
1)「掛け流し」にする。
とにかく、稲の体を冷やす。中干しをやらずに、田んぼに水を入れることで、水の気化熱も働く。用水路と水田内の温度差は、3~5度Cあり、掛け流しにより、少しでも水田内温度を下げる。なお、水が豊富にあることが条件となる。
2)そもそも、中干しは、稲を健康に育てるためのもの
稲は、水分が少なくなると、蒸散を減らすために気孔を閉じる。稲の強さを保つには、水分を補い(掛け流し)、蒸散を防ぐ。
中干し長期化により、地面がひびわれると、ちょうど表面に根を張ろうとしている時期に、水不足になり、表層の根が十分に育たなくなる。
中干し自体は、中干しにより酸素が供給されて根の活力を高める、稲刈り作業がしやすくなるなどで必要だが、稲にとって「延長・長期化」は必要ない。
3)水中の溶存酸素の確保
2回代かき、深水下での代かきにより、水中の溶存酸素を確保する。
4)水田の光合成菌類や植物プランクトンによる酸素の供給(メタンの発生抑制)
有機の水田では、この他、カブトエビ、藻類の発生など、メタン発生を抑制する生物が多い。
この他、メタンの発生抑制には、5)鉄イオンの還元がメタンの発生を抑制する、6)田畑転換で雑草とメタン生成菌が減少する(水田のメタン生成菌は、翌年に畑にすることにより死滅などで減少)がある。
【理由2】真夏の中干し延長は、土壌のひびわれ(土壌の亀裂)を起こし、これが続くと耕盤を傷め、水田の保水力、貯水力を落とす。
これは、地下水の涵養にも悪影響を及ぼす。先の「掛け流し」には十分な水が必要であり、灌漑の整備、地下水が重要になる。中長期の視点で、大干ばつに備えるためにも、水田に貯水してあることは重要である。
【理由3】中干し延長により、メタン(CH4)が減っても、一酸化二窒素(N2O)を発生させる。その温室効果は、メタンは二酸化炭素の25倍、一酸化二窒素は298倍であるという。個別にメタンだけを非難するのではなく、関連するガスを総合的にみていくべき。
1)中干し延長により、たとえメタン(CH4)が減ったとしても、それにより水田土壌に酸素が送り込まれて好気的条件となり、今度は一酸化二窒素(N2O)が発生するトレードオフが生じる。土壌からの温室効果ガスの発生抑制は個々のガスに注目するのではなく、総合的観点から検討しなければならない(松中(2023))[2]。
2)土壌粒子に吸着されていたアンモニウムが硝化菌により酸化される過程や硝酸が脱窒菌によりチッソガスになる過程で一酸化二窒素を発生させてしまう。ちなみみにメタンは炭酸ガスの23倍、一酸化二窒素は310倍の温室効果があるといわれている。農業由来の一酸化二窒素は、主に家畜糞尿や化学肥料の過剰施用に由来している(西尾(2006))[3]。
3)国際的な論議においても、アンモニア発生要因には家畜の多頭飼育由来の糞尿や化学肥料の窒素過剰施用が重視されている。水田からのメタンより、化学肥料過剰施肥等を由来とする一酸化窒素の発生抑制策が本命であるといえる。
【理由4】水中動植物が死滅し、生物多様性を劣化させる。
1)すでに多くの有機農家や自然保護団体からこの問題は指摘されてきた。有機農業は生物多様性を豊かにすることにより成立する[4]。
2)さらにこのほど、高温障害の低減のために有機農業が有効であるという点からも、水中動植物の生息に留意すべきことがわかった。
3)中干しは、稲の生理に合わせ、人の都合では稲刈り作業に合わせる。
5.下水汚染の肥料利用では、有機フッ素(PFAS、PFOS)規制を
リン酸肥料の輸入困難から、下水処理汚泥からのリン回収が推進されているが、下水汚泥利用は「有機」認証基準では禁止されているように、中長期的に土壌汚染につながる可能性がある。特に基準も検査もない状態である有機フッ素のPFAS,、PFOSについて、緊急に対策をとるべきである。
アメリカでは、すでに「農地」の有機フッ素汚染が進み、農地に適さないものがでてきているという。そうしたアメリカの実態、規制状況についても調査と結果公表を行ってもらいたい。
水田等で使われるマイクロプラスチック使用の化学肥料は河川や海に流れ、水生動物汚染を起こしていることが明らかになってきている。早急に規制すべきである。
[1] 「経験を積んだ有機農家」は、栃木県野木町の館野廣幸さん(民間稲作研究所理事長、館野かえる農場)茨城県石岡市の魚住通郎さん(日有研理事長、魚住農園)、群馬県高崎市の大塚一吉さん(滝の里農場)。
関東地方では、栃木県南部、茨城県西部、埼玉県北部でひどかったが、この地方では、2023年は、7月上旬から8月末まで、雨が降らなかった。夕立・雷雨もなく、ごく一部では雹が降った。館野さんは、「陸羽132号」(東北地方の稲)はほとんど稔らず、反当たり1俵以下。品種により、7俵は穫れた。魚住さんは自給程度の規模で、品質のよいものが穫れた。大塚さんは、「ひとめぼれ」で7俵の平年作を確保した。(日有研オンライン会議「気候変動下の今年の作柄を振り返って」(12月6日開催)より)
[2] 松中照夫(2023)『土壌学の基礎』農山漁村文化協会
[3] 西尾道徳(2006)『農業と環境汚染』農山漁村文化協会
[4] 館野廣幸「カエルと一緒に育てる有機米」『季刊 地域』No.50 2022年夏号(特集「みどり戦略に提言 生きものと一緒に農業」)
2023-12-13
「食料・農業・農村政策審議会・基本法検証部会」の「中間とりまとめ」に対する意見
「食料・農業・農村政策審議会・基本法検証部会」の「中間とりまとめ」に対する意見
2023年7月21日
NPO 日本有機農業研究会
以下は、「食料・農業・農村政策審議会・基本法検証部会」の「中間とりまとめ」に対する意見募集(2023年6月23日~7月22日)に対して専用ウェブサイトに分割して出した意見をまとめたものです。一部補足あり。
全般 基本理念
(1)食料・農業・農村の存立基盤は、SDGsのデコレーションケーキの図で言えば自然資本と呼ばれる自然生態系であり、そうした森・里・川・海の自然の恵みをもたらす「自然との共生」が基本理念に据えられるべきである。そこでは、農林漁業業関係者だけでなく、すべての一人一人が食の享受だけでなく、農・林・漁に対してそれを保全・管理・活用する権利と責務を有すると位置づけるべきである。
(2)第5次「食料・農業・農村基本計画」(2020年3月)では「産業政策」と「地域政策」(農村振興)を車の両輪ですすめ、それに加えて、「環境政策」も大きく扱われた。2006年には有機農業推進法ができており、その基本方針(2023年4月)には「有機農業が生物多様性保全や地球温暖化防止等に高い効果を示すことが明らかになってきており、その取組拡大は農業施策全体及び農村における国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成にも貢献する」とある。「みどりの食料システム戦略」においても有機農業が目標に掲げられた。有機農業を主流とした「環境政策」こそを「基本理念」の筆頭に据えるべきである。
(3)自然と共生し、それをできるだけ損なうことなく活用を図る有機農業は、総合的にみると真に生産性、効率がよく、何よりも気候変動などに対して回復力(リジリエンス)に富んでいる。50年以上の実績のある有機農業を推進することが、現下の食料自給や資材不足、生物多様性の回復にとって最適解といえる。食料安全保障の前提となる自然生態系(自然資本、社会的共通資本)を有機農業の実践によって守ることを掲げるべきである。
(4)SDGsで引用される地球の限界を示す図では、特に生物多様性が危機的である。日本での鳥・虫・水生生物・土壌生物の激減は、農業基本法(1961年)の「農業近代化」(化学合成肥料・農薬の多投、機械化、専作化など、工業的農業の推進、産業化)によりもたらされた。リン・チッソの施用過剰と土壌の疲弊も、農村人口の減少、農村の衰退も同根である。人々が自然と共に暮らし、農・林・漁にも関わり参加する有機農業を基本理念に掲げるべである。
(5)「食料安全保障」の国際的な概念(FAO)には、「安全かつ栄養ある食料」の入手が明記されている。現行法では、【食料の安定供給の確保】第二条には、「良質な食料」とあり、さらに(食料消費に関する施策の充実】第十六条には、「国は、食料の安全性の確保及び品質の改善を図る」とある。「食品の安全」と「栄養」「良質(品質の良い)」は重要な必要条件であり、食料安全保障の定義内に明記すべきである。なお、「安全で品質の良い」食品とは、自然の土から生まれるものであり、この中に、遺伝子操作・ゲノム編集、”フード・テック“等は含まれない。
(6)「食料安全保障」では、安定供給の大前提である「種子」の国内生産の増大について明記すべきである。そして、各地域が長い年月をかけて育んできた在来の種子(タネ)を守り、地域でタネから自給して地域の食・農の文化、環境(自然生態系、生物多様性)を守り、次世代に引き継ぐ活動が重要であることも明記すべきである。「中間とりまとめ」では、知的財産権の活用に言及があるが、これだけではバランスを欠く。
(7)国内市場の縮⼩を理由に「輸出の拡⼤」が推進されているが、他⽅で、各地で⾝近なところでの地域⾃給、地産地消の取組みを積極的に推進する施策を強め、バランスをとるべきである。
農業分野
(1)アジアモンスーン地帯だからこそ、旺盛な動植物の生命力を活かした身の丈の有畜複合の集約的な有機農業が有利である。夏に湿潤な気候風土の日本に、夏に冷涼なところで発達した欧⽶型「近代農業」を取り⼊れ、農業基本法(1961年)で、「効率」「⽣産性の向上」などの「工業の論理」で推進してきたことが、そもそも、今日の農業・農村の衰退を招き、⾷品の質の劣化につながった。
「生産性の向上」やスマート農業ではなく、今こそ、伝統知を踏まえて本来の科学を取り⼊れ現代に活かす「小規模・複合」「地域自給・流域⾃給型」の有機農業、すなわち、「生態系の力を活用した持続可能な農業と循環型の食料システム」としての有機農業である。
(2)伝統的農法を継承しつつ現代の(真の)科学を統合して進める「有機農業」なら⾷料の自給は可能である。「はっきりした四季があり、緑の樹木に覆われた山々には豊かな⽔系がめぐり、開けた⼤地は肥沃な土壌に恵まれてきた太陽エネルギーを⼗分に享受できるこの列島は、地球でも稀にみるほど農業に適している。この恵みを活かして私たちの祖先は営々と田畑を築き、海の幸・山の幸を食卓に供し、欧米の10分の1や100分の1の面積で多数の人口を養ってきた」(『有機農業ハンドブック 土づくりから食べ方まで』日本有機農業研究会)、「はじめに」より)。なお、そのためには、都市住人が田園回帰する流れを総力を挙げて取り組むべきである。
(3)戦後の農地改革では、農地が小作人に解放され、自作農が創出された。谷津田や棚田の隅々まで耕してきたのは、自作地を持った農民であり、その周辺に位置する⼭林と⽔路や道を保全してきたのは、その集落の農民であった。この⼩規模の農民が普通に暮らせるような社会にしなければ、山間部から耕作放棄地は増え、獣害も増え、山林と農業が⼀体となった景観も壊れてしまう。食料生産の4割を担う中山間部における農業に対し、いっそうの総合的な支援強化が必要であり、農地を農地として残さねばならない。自然生態系と共にある農山村と農業を社会的共通資本、すなわち国民の生命(いのち)・生活(くらし)の土台として位置づけるべきである。
(4)小規模複合の有機農業こそが中長期的にみて持続可能であり、総合的な生産力も高いことが明らかになっていることを踏まえ、そうした有機農業を基本に据え、拡大普及すること。創意工夫に富み、自然の恵みを享受できる楽しい農業、暮らしと一体となった生業(なりわい)としての「くらし農業」に重点を置いた位置づけをし推進することが、農業人口・農村人口の復活につながる。大規模化とスマート農業では、ますます人が農村から減少する。
(5)「農薬削減」は、速やかな有機農業への転換により行うことが、迂遠なようにみえても近道である。農薬(化学合成、生物農薬など。特定農薬除く)削減は、小さな面積から区切ってでも、段階的に行うのがよい。ドローンでの農薬散布や大型AI農薬噴霧器の開発のためのお金は、有機農業への転換のための研修費用にこそ当てるべきである。また、殺虫剤ネオニコチノイド系農薬は、直ちに使用禁止にすべきである。
(6)「化学肥料の削減」についても、速やかな有機農業への転換により行う。具体的には「良質の堆肥等」の投入による「土づくり」が基本であり、「生きている土壌」を醸成することが肝要である。堆肥は原材料が「良質」であることが重要である。ちなみに「有機」認証基準(有機JAS)では、「下水汚泥」の投入は禁じられている。有機農業拡大を考えれば、慣行栽培農地にも、安全性等で不安材料となるものを投入すべきではない。
(7)大規模機械化は、土壌を踏み固め、エネルギー消費増大を招き、経営的には過剰投資による経営不安、従事する人にとっては、過重な労力と単調な作業や機械に使われる仕事となりかねない。農業基本法以来とってきた「産業化」と「工業的農業」はすでに破綻している。そしてそれと軌を一にする遺伝子工学や人造たんぱく、昆虫パウダーでは「持続可能な農業」にはなりえないことを認識し直すべきである。
(8)中⼭間地域における農林業が存在しつづけることが、全体の⾷料の安定供給にとって重要であることを再認識すべきである。それだけでなく、中山間地域農業の農業は、国土保全、生物多様性の保持、景観の維持など多くの多面的機能を発揮できる点でも重要である。中山間地域の居住者に対する各種の直接支払いを充実させることが急務である。
食料分野
(1)自然の摂理を逸脱しているゲノム編集を含む遺伝子操作技術による遺伝子改変生物の禁止を明瞭にすべきである。また、「フードテック」と呼ばれる培養肉、培養ミルクなどのニセ食品、また、コオロギパウダーなど工業的昆虫食は、食と農の伝統・文化を壊すので、認めないことを明記すべきである。
(2)食の安全と選択のための表示、および消費者の意見が政策に反映されることなどは消費者基本法で明記され、国際的にも認められている消費者の権利である。食料・農業・農村基本法においてもそうしたことを明記し、その上に立って生産コストの価格転換や農業への理解が図られねばならない。そしてまた、食の安全は、将来を見通した「予防原則」に立つものでなければならない。
農村分野
(1)持続可能な農業は、地域(国)の風土・気象・地形などの自然生態系に根ざした長い年月にわたり持続されてきた伝統農法の延長上にある。日本では、緑に覆われた森林を背後に抱えた里山と里地が一体となった田園風景でわかるように、里山と有機的なつながりの中で農業が持続されてきた。それが分断され、森林・里山が荒れている。農地と一体として捉えることが重要であり、その整備(手入れ)が急務であることを明記すべきである。
(2)それぞれの地域社会と一体となった在来品種をはじめとする多様な作物の種子(品種)の保全・継承を各地の地域(農村)が必要不可欠な活動・事業として行えるよう、支援することを明記すべきである。地域の種子の採種(農業者に限らず、地域の家庭菜園者や自給的農家、半農半X含む)の活動の公的な支援(直払い等含む)にも言及すべきである。
環境分野
(1)(再掲)基本計画では「産業政策」と「地域政策」(農村振興)を⾞の両輪ですすめ、それに加えて、「環境政策」も大きく扱われた。2006年には有機農業推進法ができており、その基本方針には「有機農業が⽣物多様性保全や地球温暖化防⽌等に⾼い効果を示すことが明らかになってきており、その取組拡⼤は農業施策全体及び農村における国連の持続可能な開発⽬標(SDGs)の達成にも貢献する」とある。「みどりの⾷料システム戦略」においても有機農業が⽬標に掲げられた。有機農業を主流とした「環境政策」こそを「基本理念」の筆頭に据えるべきである。
(2)生物多様性の減少では、種子(タネ、品種)についても重要である。作物品種について、それぞれの地域で育まれてきた多様性のある在来種、地方種も含めて、多様な作物種を保全し継承することを、各地の地方公共団体をはじめとして公的に支援する施策が必要であることを明記すべきである。
その他
(1)農地集積・規模拡大・基盤整備等で地域での農地集積と10年後の担い手確定などが行われているが、地形や気象に合わせて形成されてきた個性ある農地を「効率化」などの観点から移動させたり大規模化の基盤整備を行うのは、慎重に実施すべきである。棚田、谷津田なども守るすべを考えるべきである。
それには、里山を組み入れた「森林公園」の活用による田畑を含めた「森の公園」に地域の人々が集い耕す田畑(体験農場、農業教育)を組み込んだ事例が参考になる。
(2)「有機農業公園をつくろう」―有機農業の普及拡大に向けて、公園内に有機農業の小規模の田畑を設営して、技術指導、研修、相談、農業体験、直売所、レストラン利用などが総合的にできる「有機農業公園」を各地に設置する。公園であるので誰でも入ることができ、有機農業の田畑のようすをつぶさにみることができる。住民も有機農業を身近に五感で感じることができるので有機農業への理解も深まる。このような「有機農業公園」、あるいは名称は「森里海をつなぐ公園」でも「自然と農業公園」でも、あるいは、「有機農業推進センター」など、地域にふさわしいものにしていく。
以上
2022-11-08
農薬「補助成分」パブコメ 直ちに禁止を
農薬の補助成分の登録拒否基準の省令案についての日本有機農業研究会の意見
(農薬取締法第四条第一項第十一号の農林水産省令・環境省令で定める場合を
定める省令(案)についての意見・情報の募集 2022年9月13日―10月12日)
1 今回提案されている農薬の補助成分30物質について、発がん性など人の健康に関わる毒性が科学的根拠をもって明らかにされたことから「登録拒否基準」に掲載し、使用禁止とすることには賛成します。
2 しかし、これらの補助成分30物質のうちいずれかが「全重量の0.1%以上含まれている場合」としていることには反対であり、いずれも「検出されてはならない」と、一切の使用を禁止することを求めます。
3 「施行期日」が2025年(令和7年)10月1日(予定)とされていることには反対です。
これらの30物質の補助成分が含まれた農薬(製剤)は、直ちに市場から回収、そして農家在庫等も含め、使用停止されるべきです。したがって、「施行期日」は、省令成立の日とすることを求めます。
4 「経過措置」に反対し、削除を求めます。
この「経過措置」があることにより、これらの毒性があるとわかった補助成分を含む農薬が、施行期日の2025年10月1日以降も、当該農薬の有効期限になり登録落ちになるまで、田畑、環境(農薬は大気汚染、土壌汚染、河川・湖沼・海の汚染を引き起こす)に放出され続けることになってしまいます。このような状態は認めることができないので、直ちに市場から回収、そして農家在庫等も含め使用を停止すべきです。
5 これらの30物質の補助成分を用いた農薬(製剤)の商品名を速やかに一覧表にして、公表することを求めます。
農薬使用に際して、農薬成分である化学物質に曝される恐れのある人は農家をはじめ、非農耕地での使用者、家庭菜園者、農薬散布地周辺住民など、多様な多くの人々です。これらの使用者・消費者・実需者が今回規制される農薬を容易に判別できるように商品名で広く知らせることが必要です。
6 併せて、これらの30物質の補助成分を用いた農薬(製剤)に、それが含まれていることを示す「警告表示」の義務付けを行ってください。
人の薬剤に対する感受性には強弱の幅があります。もしも、施行期日や経過措置を変えずに提案のまま強行するのであれば、上述4と、この「警告表示」の義務付けは必須です。該当する農薬を明らかにし、そして警告表示をすることを求めます。
7 使用禁止となる30物質について、製造業者に対する行政指導だけでなく、農業団体、農家等に対して、上述4と5を活用し、これらの農薬の回収・使用停止を促す行政指導を徹底強化してください。
2022-11-08
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[プレス・リリース] 有機農業3団体、ゲノム編集作物「高GABAトマト」の届け出受理に反対する意見書を政府(厚生労働大臣、農林水産大臣、消費者庁担当大臣)に提出
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