日本有機農業研究会とは
本来あるべき「農業」と「食べ方」「暮らし方」の追求
日本有機農業研究会は、有機農業の探究、実践、普及啓発、交流等を目的に生産者と消費者、研究者を中心として1971年に結成されました。運営は会費とボランティアで賄い、会誌『土と健康』にも広告を一切掲載しないで独立性を保持している自主的な団体です。
目的には、「環境破壊を伴わず地力を維持培養しつつ、健康的で味の良い食物を生産する方法を探究し、その確立に資するとともに、食生活をはじめとする生活全般の改善を図り、地球上の生物が永続的にに共生できる環境を保全すること」を掲げ(規約第四条)、各地で現在約4000名の会員が多彩な活動を展開しています。本会の趣旨(結成趣意書参照)、規約等に賛同する個人は誰でも会員になることができます。
本会の歩み
発足した1971年前後は、高度経済成長期のただ中であり、農業においても生産性を上げるために農薬・化学肥料・薬剤を大量使用する近代化農業が推進され、その弊害が明るみになってきました。農業者やその家族が生命・健康を脅かされたり、家畜の異変や土の疲弊、環境の悪化を感じとった生産者は、環境・健康を破壊しない農業を実践し始めました。他方、食べ物の安全性と農業・環境の現状に強い不安を抱いた消費者(都市生活者)たちは、無添加食品や安全な卵・牛乳などを求めて活動を始めました。本会の結成は、これらの生産者、消費者を結びつけるとともに、相互の協力連帯のもとで有機農業を確立し社会的に広げていくことになったのです。
結成を呼びかけたのは、協同組合運動家で当時協同組合経営研究所理事長をしていた一楽照雄でした。愛媛で自然農法を実践する福岡正信、食べものと健康との強いつながりを指摘し無農薬栽培を進めた医師・梁瀬義亮(慈光会)、農薬禍を憂えて農村医学を創始した若月俊一(佐久総合病院)らに触発され、初代代表幹事に塩見友之助(元農林事務次官)、常任幹事に一楽ほか3名、事務局長築地文太郎、そして土壌微生物の重要性を説く足立仁、横井利直、自然農法の指導者露木裕喜夫など11名を幹事として、旗揚げしました。
当初は、アメリカ有機農業運動の先駆者・ロデイルを招いたり、食べ物、医学、農学などに関する研究会的な集まりでした。2~3年経つと、全国各地で期せずして生産者と消費者が共に有機農業を進める実践運動が起きてきて、会員も増え始めました。74年の総会では、協同組合の精神に則って、自立した農民と消費者がお互いに扶け合いながら世の中をつくり直していく、農協・生協も含む生産者と消費者が提携する実践運動の会であるというアピールをしました。当時いわれていた産直・共同購入(中間業者を抜き、価格をより安く)をのり超え、双方が相互理解を深め、労力や資金を出し合い、自主的な配送によって生産者の拠点から消費者の拠点(配送ポスト、ステーションなど)に継続的に農産物を手渡していく、新たな産直・共同購入を「提携」と名付けたのです。
78年の第4回総会では、今日も基本理念となっている「生産者と消費者の提携の方法」(提携十か条)を採択しました。これは、すでに成果を納めていた人々が集まり、一晩中話し合ってとりまとめた、実践に裏づけられた指針です。
生産者と消費者の提携の方法十か条(要旨)
・単なる「商品」の売り買い関係でなく、人と人との 友好的つきあい関係(有機的人間関係)を築く。
・生産者と消費者の合意により、計画的に生産する。
・消費者は生産物を全量引き取る。・互恵精神に基づいて、価格を取り決める。
・相互信頼のために交流を深める。
・生産者と消費者が農産物を自主配送する。
・グループを民主的に運営する。
・学習活動を重視する。
・グループの会員数の適正規模を堅持する。
・理想に向かって、逐次前進する(理念を持って有機 農業を実践する。自然を大切にした生活をする)。
「提携」と共に、本会は「自給」を運動の中心に据えてきました。自給を基礎にした農業は、多種多様な品目を少量ずつ作り、畜産を組み合わせた有畜複合小農経営となり、堆厩肥・飼料・種子なども自給する自然に調和した循環的な農業です。農薬や化学肥料など合成化学物質に依存しないばかりでなく、地域の資源をできるだけ活用し、輪作をはじめ、共生植物や天敵の昆虫による防除、合鴨や鯉による除草など、伝統に学びつつ、さらにそれらを現代に活かすさまざまな創意工夫で進める新しい農業です。
提携グループの消費者は、このような新たな農法に取り組む生産者のつくる食べ物を収穫の多寡や形状の如何にかかわらず引き取り、手間のかかる作業に加わったり、選別・包装の簡略化に協力しながら、応援してきました。話し合って作付や価格を決め、既存の流通制度に拠らずに自分たちで配送を行うことも、農家の自立と経営的な安定、農法の持続性を支えることにつながります。それらを通して、消費者も農業への理解を深め、間引き菜からとうが立つまで、田畑の四季に合わせて旬のものを食べる工夫をしながら食生活を健康的なものに変革してきました。
生産者と消費者の「顔と顔のみえる関係」が育まれるなかで、農家の食卓はそのまま都市消費者の食卓につながっています。そして、地域の小規模の食品加工業者や山、海の産物ともつながり、地域の自立をうながしています。提携は、単に流通方法の変革だけでなく、その相互交流のなかで、現代の農業技術体系、経営形態、農業労働観、流通システム、食物の消費構造、そして、食料・農業政策などをそれぞれ問い直し、農業を本来の「あるべき姿の農業」に取り戻し、同時に流通のあり方や食生活を改善し、生活の変革をうながすダイナミックな等身大の草の根運動なのです。
(図参照)
有機農業運動の理念と方法
(出典) 保田茂 「日本の有機農業」 ダイヤモンド社、1986年
本会では、会合などの機会あるごとに、生産者が自ら採取した良い品種の種を交換する種苗交換会を開催しています。種子についても農家の自立を図り、有機農業にふさわしい品種を自分たちで作り、広めていくためです。また、海外との交流にも努め、フィリピン・ネグロス島での自給的な農業の指導を行ったり、外国からの研修生も受け入れるなど交流に努めています。
他方、こうした有機農業の提携運動が広がるなかで、そこで取り交わされる安全な有機農産物・有機加工食品が注目され、専門に取り扱う事業者やこれらを販売する食料品店、デパート、スーパーマーケットも増えてきました。健康・安全・環境問題の深刻化から消費者の関心も高まり、需要も急増しています。本会は、食品マーケットにおいて氾濫する「有機」「無農薬」「低農薬・減農薬」などの食品表示の混乱に対し、1988年には、「有機農産物とは、生産から消費までの過程を通じて化学肥料・農薬等の合成化学物質や生物薬剤、放射性物質、(遺伝子組換え種子及び生産物等)をまったく使用せず、その地域の資源をできるだけ活用し、自然が本来有する生産力を尊重した方法で生産されたものをいう」(かっこ内は98年に追加改定)という「有機農産物の定義」を公表しました。
1998年には、有機農業の指針ともいえる「有機農業のめざすもの」として、・安全で質のよい食べ物の生産、・環境を守る、・自然との共生、・地域自給と循環、・地力の維持培養、・生物の多様性を守る、・健全な飼養環境の保障、・人権と公正な労働の保障、・生産者と消費者の提携、・農の価値を広め、生命尊重の社会を築くを決め、生産基準案の検討も行っています。
今日、70年代に直観した数々の不安は、現実的なものとなって迫ってきています。環境問題は地域を越えて地球規模に広がり、人々の健康もむしばまれ、グローバル化の進むなかで農業基盤さえ侵されようとしています。世界の食糧問題もいっそう深刻化が予想されます。21世紀へ向けて、まず足元の自給を固めること、そして〈農〉と〈食〉を通した人びとの交流をいっそうすすめ、楽しくやりがいのある農業や、健康的で環境にもよい食べ方、暮らし方の追求をしています。
本会の主な活動
■日本有機農業研究会大会・総会
第26回・98年「優気・遊機・有喜・・古きをたずね、時代をひらく」(京都)、99年「環境ホルモンと遺伝子組換えを超えて」(茨城)など、有機農業運動の発展と相互交流をめざし、各地の有機農業研究会や関係団体と共に毎年2月に開催。
■講演会・シンポジウム・セミナーなど普及啓発活動
「新農基法を考える徹底討論会」、「300号記念これからの有機農業シンポジウム」、「遺伝子組換え食品に反対し、大豆の自給を!」(いずれも97年)、「アトピーとたべもの」(98年)など。
■有機農業入門講座
有機農業入門講座(新規就農者や有機農業志願者を対象とした研修会)、技(わざ)研究会(各地域で開く技術交流)、研究会、研修会、各部会の集まりなど、研究・研修活動
■種苗交換会
年1~3回開催。種苗の自給をめざし、各人自慢の自主採取種子を持ち寄り会員間で交換。種子に込められた技術交流も行う。
■機関誌『土と健康』(月刊)の発行
結成の翌1972年2月に創刊(78年まで『たべものと健康』)、98年1月には300号記念号として「21世紀の有機農業-古きに学び、新しい時代を拓く」特集号を発行。本会開催のシンポジウム・研究会等の報告、食と農、環境をめぐる最新情報、各地の有機農業に関する活動情報のほか、特集形式による社会的課題への積極的問題提起も行う月刊誌。会員配布。
■資料等の発行
シンポジウム記録『食と農と長寿農』、有機農業運動資料『有機農業への道』、『有機農業カレンダー』(毎年)、『全国有機農業生産者マップ・・自給と提携でいのちを支え合う人びと』、『有機農業の基準問題への取組み』など、随時発行。
■社会的課題への発言と取組み、行政への提言など
有機農産物表示や検査・認証問題に対する提言、遺伝子組換え作物に関する提言、新基本法に対する提言など。96年9月には、本会「基準検討委員会」を設置、「IFOAM基礎基準を参考とした討議資料」公表(第1次97年、第2次98年)、定義、基準、検査認証問題等を検討。
■国内外の有機農業関係団体、環境保護団体、消費者団体などとの連携・協力
1993年には、国際有機農業運動連盟(IFOAM)の会員団体として、第1回「有機農業アジア大会」を開催(埼玉)、「遺伝子組換え食品いらない、世界行動デー」への参加(97・98年)など。
次のような部が活動しています
◇生産部
『全国有機農業生産者マップ』『有機農業ハンドブック』の作成を提案し、参画。今後はこれらの刊行物を活用しながら生産者同士の交流、有機農業技術の交流を重ねていくつもりです。
◇種苗部
有機農業に適した種苗の自給、交換、紹介など、種苗に関する交流を行っています。各地で「種苗交換会」を開催するほか、『土と健康』誌上で「私がおすすめの種苗」を連載中。種苗に関する話題も提供しています。
◇自給部
「五穀豊穣」の最後の一饒、“米”までも輸入するようになり、日本は“根のない国”、まさに“切り花国家”の道を歩んでいます。食べものを自給することこそは、近づきつつある飢えを防ぎ、健康で安心の行く社会を築き、環境を守り、国際社会に貢献し、いのちを大切にする心を養うと確信し、食べものを質量ともに豊かに自給する方策をあらゆる角度から検討しています。当面は、主食の米麦一貫生産体制の復活に向けて、実践、理論の両面から生活部会と連携して活動していきます。
◇生活部
当面の課題は、「雑穀」や「五穀」と呼ばれてきたそば、きび、ひえ、あわ、大麦、小麦、豆類などを見直すこと。これらの穀物と旬の野菜を使って、健康によくおいしい、風土に根ざした食事を、つくる側と食べる側が一緒になって広めていきます。
◇国際部
世界中の有機農業を推進している人びとは、“有機農業”の広い概念では一致しても、その普及や運動の方法は、まさに千差万別です。国際有機農業運動連盟(IFOAM)を中心とした世界の有機農業の動きを紹介し、また逆に日本の動きを積極的にアジアへ、また世界へと発信しながら、日本の有機農業の展開に資していきたいと考えています。日本の有機農業の実情を「JOAA NEWS」として随時発行、外国、特に第三世界から有機農業関係者の受け入れ、外国の有機農業視察するツアーの企画、IFOAM機関誌等の翻訳紹介(会誌『土と健康』などに掲載)、IFOAM-アジアのニュースレターの編集・発行、情報交換と人事の交流などを行っています。
◇提携と基準研究部
「提携」を基礎にした有機農業運動においても「基準」の問題は看過できないことから、1990年、内外の基準認証問題などについて研究活動を始め、その成果を適宜、会誌『土と健康』等に発表してきました。より広く深い視野から、提携と基準問題に関する研究活動を続けていきます。
◇青年部
農産物の自由化、米の減反等、農業・農村にとって明るい兆しがなく、農村では、担い手が少なくなっています。他方、都市には、「農業をしたい」「農的くらしがしたい」と思う人がふえています。青年部は、若い生産者、学生、就農を考えたり農に興味のある人とをつなぐ接点となって、情報交換、意見交換を行い、農業や農業周辺の技術を学んで、明るい楽しい農村を創ろうと、次のようなことを行っています。・定例会、(現地研修会含む)、・新規就農や研修先等の情報提供、・会誌『土と健康』の青年部のページ担当(農にかかわる女性の意見、気持ち、考え等をリレー式に綴っていく企画など)、・「有機農業入門講座」の企画・実施に参加。また、現場を重視した規模の小さい入門講座を各地で創っていきたいと考えています。
◇科学部
1996年、遺伝子組換え食品(大豆、なたね等)の輸入が始まったことから、このような食の安全と農業・環境を脅かす科学技術の利用等について、問題点を解明し社会的な発言を強めるために部会を設置。さらに、環境ホルモン(内分泌攪乱化学物質)問題や病原性微生物の対策問題などにも取り組んでいます。
定 款
定 款
2001年2月17日総会議決
2004年2月15日改正
第1章 総 則
(名称)
第1条 第1条 この法人は、特定非営利活動法人日本有機農業研究会という。
(英語名 Japan Organic Agriculture Association 略称 JOAA)
(事務所)
第2条 この法人は、事務所を東京都文京区本郷3丁目17番12号プレシアス本郷501号に置く。
第2章 目的及び事業
(目的)
第3条 この法人は、環境破壊を伴わずに地力を維持培養しつつ、健康的で質の良い食物を生産する農業を探求し、その確立・普及を図るとともに、食生活をはじめとする生活全般の改善を図ることにより、地球上の人類を含むあらゆる生物が永続的に共生できる環境を保全することを目的とする。
(特定活動の種類)
第4条 この法人は、前条の目的を達成するため、特定非営利活動促進法(以下「法」という。)第2条第1項に規定する活動のうち、次の活動を行う。
(1) 保健、医療又は福祉の増進を図る活動
(2) 国際協力の活動
(3) 社会教育の推進を図る活動
(4) 環境保全を図る活動
(5) 子どもの健全育成を図る活動
(6) 以上の活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動
(事業の種類)
第5条
(1) 食料自給、有機農業生産、健康な食べ方と有機生活、有機種苗、食品安全と環境保全、産消提携等に関する調査・研究の実施、研究会の開催
(2) 食料自給、有機農業生産、健康な食べ方と有機生活、有機種苗、食品安全と環境保全産消提携等の普及・啓発のための研修会、講習会、学習会等の開催
(3) 有機農産物、有機種苗、有機農業情報及び食品安全と環境保全情報等の交換・交流のためのネットワークの運営
(4) 有機農業、有機生活に係る基準、資格等の設定
(5) 有機農業、有機生活に係る相談
(6) 内外の有機農業関連団体、環境保護団体、消費者団体等との連絡、連携、協議、協力
(7) 本法人活動に係る書籍、資料、映像資料等の作成、刊行、頒布
(8) 会誌の発行
(9) その他この法人の目的を達成するために必要な事業
第3章 会 員
(会員の種別)
第6条 この法人の会員は、次の3種とし、運営会員をもって法上の社員とする。
(1) 運営会員 この法人の目的に賛同して入会した個人又は団体
(2) 普通会員 この法人の事業を賛助するため入会した個人又は団体
(3) 購読会員 会誌を購読するため入会した個人又は団体
2 運営会員は、総会に出席し、議決権を行使するよう努めなければならない。
(入会)
第7条 運営会員、普通会員として入会しようとする者は、理事長が別に定める入会申込書により理事長に申し込むものとし、理事長は正当な理由がなければ入会を認めなければならない。
2 理事長は前項の者の入会を認めないときは、速やかに理由を付した書面をもって本人にその旨を通知しなければならない。
(会費)
第8条 会員は、総会において別に定める会費を納入しなければならない。
(会員の資格の喪失)
第9条 会員が次の各号の1に該当する場合には、その資格を喪失する。
(1) 退会届の提出をしたとき
(2) 本人が死亡し、又は会員である団体が消滅したとき
(3) 継続して2年以上会費を滞納したとき
(4) 除名されたとき
(退会)
第10条 会員は、理事長が別に定める退会届を理事長に提出して、任意に退会することができる。
(除名)
第11条 本法人の会員が次の各号に該当するときは、総会の議決によって、理事長がこれを除名することができる。ただし議決する前に当該会員に弁明の機会を与えなければならない。
(1) 本法人の名誉を傷つけ、又は本法人の目的に反する行為のあったとき
(2) この定款等に違反したとき
(拠出金品の不返還)
第12条 既に納入した会費及び拠出金品は、返還しない。
第4章 役員・顧問及び職員
(役員の種類及び定数)
第13条 この法人に次の役員を置く。
(1) 理事 10名以上
うち理事長 1名
副理事長 若干名
(2) 監事 2名
(役員の選出)
第14条 理事及び監事は、総会において選任する。
2 理事長及び副理事長は、理事の互選とする。
3 役員のうちには、それぞれの役員について、その配偶者若しくは3親等以内の親族が1人を超えて含まれ、又は当該役員並びにその配偶者及び3親等以内の親族が役員の総数の3分の1を超えて含まれることになってはならない。
4 法第20条各号のいずれかに該当する者は、この法人の役員になることができない。
5 監事は、理事又はこの法人の職員を兼ねてはならない。
(役員の職務)
第15条 理事長は、この法人を代表し、この法人の業務を総理する。
2 副理事長は、理事長を補佐し、理事長に事故あるとき又は理事長が欠けたときは、理事長があらかじめ指名した順序に従って、その業務を代行する。
3 理事は、理事会を構成し、この定款の定め及び理事会の議決に基づき、この法人の業務を執行する。
4 監事は、次に掲げる職務を行う。
(1) この法人の財産の状況を監査すること
(2) 理事の業務執行の状況を監査すること
(3) 不正事実を発見したとき、これを総会又は所轄庁に報告すること
(4) 前号の報告をするために必要あるときは、総会又は理事会を招集すること
(5) 理事の業務執行の状況又はこの法人の財産の状況について、理事に意見を述べ、若しくは理事会の招集を請求すること
(役員の任期等)
第16条 役員の任期は2年とする。ただし、再任は妨げない。
2 役員は、辞任又は任期満了後も後任者が選任されるまで、その業務を行う。
3 役員が補欠のため、又は増員によって就任した役員の任期は、それぞれの前任者又は現任者の残任期問とする。
(役員の欠員補充)
第17条 理事又は監事のうち、その定数の3分の1を超えるものが欠けたときは、遅滞なくこれを補充しなければならない。
(役員の解任)
第18条 役員が次の各号の1に該当するに至ったときは、総会の議決により、これを解任することができる。ただし議決する前に当該役員に弁明の機会を与えなければならない。
(1) 心身の故障のため、職務の遂行に堪えないと認められるとき
(2) 職務上の義務違反その他役員たるにふさわしくない行為のあったとき
(役員の報酬等)
第19条 役員は、その総数の3分の1以下の範囲内で報酬を受けることができる。
2 役員には、その職務を執行するために要した費用を弁償することができる。
3 前2項に関し必要な事項は、総会め議決を経て、理事長が別に定める。
(顧問の委嘱と任期)
第20条 顧問は、必要に応じて理事会が議決し、理事長が委嘱する。
2 顧問の任期は、委嘱日より起算して2年とする。ただし再任することができる。
(事務局及び事務職員)
第21条 この法人の事務を処理するため、事務所内に事務局を置き、事務処理に必要な職員を置く。
2 職員は理事長が任免する。ただし事務局長の任免は理事会の議決を経て行う。
3 職員は、理事長の指示により事務を執り行う。
第5章 総 会
(総会の構成及び運営)
第22条 総会は、通常総会及び臨時総会の2種とし、運営会員をもって構成する。
2 通常総会は、毎年1回、事業年度終了後3か月以内に理事長が招集する。
3 臨時総会は、次の各号の1に該当する場合に開催する。
(1) 理事会が必要と認め、招集の請求をしたとき
(2) 運営会員総数の5分の1以上から会議に付議すべき事項を示した害面によって請求があったとき
(3) 第15条第4項第4号の規定により、監事から招集があったとき
4 前項第1号及び第2号の規定による請求があったときは、理事長が臨時総会を招集する。
5 総会の招集は、その会議の日時、場所、目的及び審議事項を記載した書面又は本法人の会誌により、少なくとも10日前までに通知する。
(総会の議長)
第23条 総会の議長は、その総会に出席した運営会員の中から選出する。
(総会の議決事項)
第24条 総会は、以下の事項について議決する。
(1) 定款の変更
(2) 解散及び合併
(3) 事業計画及び収支予算並びにその変更
(4) 事業報告及び収支決算
(5) 役員の選任又は解任及び職務
(6) 会費の額
(7) 借入金(その事業年度内の収入をもって償還する短期借入金を除く。)その他新たな義務の負担及び権利の放棄
(8) 事務局の組織及び運営
(9) その他この法人の運営に関する事項で、理事会において必要と認めるもの
(総会の定足数)
第25条 総会は、運営会員総数の10分の1以上の出席がなければ開会することはできない。
(総会の議決)
第26条 総会における議決事項は、第22条第5項の規定によってあらかじめ通知した事項とする。
2 総会の議事は、この定款に別段の定めがある場合を除き、総会に出席した運営会員の過半数をもって決し、可否同数のときは議長の決するところによる。
(総会での表決権等)
第27条 各運営会員の表決権は平等なものとし、個人、団体にかかわらず、1運営会員につき1票とする。
2 やむを得ない理由のため総会に出席できない運営会員は、あらかじめ通知された事項について書面をもって表決し、又は他の運営会員を代理人として表決を委任することができる。
3 前項の規定により表決した運営会員は、前2条の適用については、総会に出席したものとみなす。
4 総会の議決について、特別の利害関係を有する運営会員は、その議事の議決に加わることができない。
(総会の議事録)
第28条 総会の議事については、次の事項を記載した議事録を作成しなければならない。
(1) 日時及び場所
(2) 運営会員総数及び出席者数(書面表決者又は表決委任者がある場合は、その数を付記する。)
(3) 審議事項
(4) 議事の経遇の概要及び議決の結果
(5) 議事録署名人の選任に関する事項
2 議事録には、議長及びその会議において選任された議事録署名人2人以上が記名押印又は署名しなければならない。
第6章 理事会
(理事会の構成)
第29条 理事会は、理事をもって構成する。
(理事会の権能)
第30条 理事会は、この定款で定めるもののほか、次の事項を議決する。
(1) 総会に付議すべき事項
(2) 総会の議決した事項の執行に関する事項
(3) その他総会の議決を要しない会務の執行に関する事項
(理事会の開催)
第31条 理事会は、次の各号の1に該当する場合に開催する。
(1) 理事長が必要と認めたとき
(2) 理事総数の5分の1以上から会議の目的である事項を記載した書面をもって招集の請求があったとき
(3) 第15条第4項第4号の規定により、監事から招集があったとき
(4) 第15条第4項第5号の規定により、監事から招集の請求があったとき
(理事会の招集)
第32条 理事会は、前条第3号を除き理事長が招集する。
2 監事が紹集する場合を除き、理事長は、前条第2号及び第4号の規定による請求があったときは、その日から30日以内に理事会を紹集しなければならない。
3 理事会を招集するときは、会議の日時、場所、目的及び審議事項を記載した書面をもって、少なくとも5日前までに通知しなければならない。
(理事会の議長)
第33条 理事会の議長は、理事長又は理事長の指名する者がこれに当たる。
(理事会の議決)
第34条 理事会における議決事項は、第32条第3項の規定によってあらかじめ通知した事項とする。ただし議事に緊急性のあるものはこの限りではない。
2 理事会の議事は、この定款に別段の定めがある場合を除くほか、理事総数の過半数をもって決し、可否同数の場合は議長の決するところとする。
(理事会での表決権等)
第35条 各理事の表決権は、平等なものとする。
2 やむを得ない理由のため理事会に出席できない理事は、あらかじめ通知された事項について書面をもって表決し、又はほかの理事を代理人として表決を委任することができる。
3 理事会の議決について、特別の利害関係を有する理事はその議事の議決に加わることができない。
(理事会の議事録)
第36条 理事会の議事については、次の事項を記載した議事録を作成し、全理事に理事会後遅滞なく配布しなければならない。
(1) 日時及び場所
(2) 理事総数、出席者数及び出席者氏名(書面表決者又は表決委任者がある場合は、その数及び氏名を付記する。)
(3) 審議事項
(4) 議事の経過の概要及び議決の結果
(5) 議事録署名人の選任に関する事項
< 2 議事録には、議長及びその会議において選任された議事録署名人2人以上が記名押印又は署名しなければならない。
第7章 資産及び会計
(資産の構成)
第37条 この法人の資産は、次の各号に掲げるものをもって構成する。
(1) 設立当初の財産目録に記載された資産
(2) 会費
(3) 事業に伴う収入
(4) 資産により生じる収入
(5) 寄付金及び助成金
(6) その他の収入
(資産の区分)
第38条 この法人の資産は、特定非営利活動に係る事業に関する資産とする。
(資産の管理)
第39条 この法人の資産は、理事長が管理し、その方法は、総会の議決を経て、理事長が別に定める。
(会計の原則)
第40条 この法人の会計は、法第27条各号に掲げる原則に従って行うものとする。
(会計の区分)
第41条 この法人の会計は、特定非営利活動に係る事業に関する会計とする。
(事業計画及び収支予算)
第42条 この法人の事業計画及びこれに伴う収支予算は、理事長が編成し、総会の議決を経るものとする。
(暫定予算)
第43条 やむを得ない理由により予算が成立しないときは、理事会の議決を経て、予算成立の日まで前事業年度の予算に準じ収入支出することができる。
2 予備費を使用するときは、理事会の議決を経なければならない。
(予備費の設定及び使用)
第44条 予算超過又は予算外の支出にあてるため、予算申に予備費を設けることができる。
2 予備費を使用するときは、理事会の議決を経なければならない。
(予算の追加及び更正)
第45条 予算成立後にやむを得ない事由が生じたときは、総会の議決を経て、既定予算の追加又は更生をすることができる。
(事業報告及び収支決算)
第46条 この法人の事業報告及び収支計算書、財産目録、貸借対照表は、毎事業年度終了後、速やかに会員の移動状況に関する書類とともに理事長が作成し、監事の監査を受け、理事会及び総会の議決を経なければならない。
(事業年度)
第47条 この法人の事業年度は、毎年1月1日に始まり、同年12月31日に終わる。
第8章 定款の変更、解散及び合併
(定款の変更)
第48条 この法人の定款を変更しようとするときは、総会に出席した運営会員の3分の2以上の多数による議決をへ、かつ法第25条第3項に規定する軽微な事項を除いて所轄庁の認証を受けなければならない。
(解散)
第49条 この法人は、次に掲げる事由により解散する。
(1) 総会の決議
(2) 目的とする特定非営利活動に係る事業の成功の不能
(3) 運営会員の欠亡
(4) 合併
(5) 破産
(6) 所轄庁による設立の認証の取り消し
2 前項第1号の事由によりこの法人が解散するときは、運営会員総数の3分の2以上の承諾を得なければならない。
3 第1項第2号の事由により解散するときは、所轄庁の認定を得なければならない。
(残余財産の帰属)
第50条 この法人の解散(合併又は破産による解散を除く。)に伴う残余財産は、解散総会の議決に基づいて、法第11条第3項に基づき、総会で議決した他団体に譲渡するものとする。
(合併)
第51条 この法人が合併しようとするときは、運営会員総数の3分の2以上の議決を経、かつ所轄庁の認証を得なければならない。
第9章 公告の方法
第52条 この法人の公告は、この法人の事務所に掲示するとともに、官報に掲載して行う。
第10章 雑則
(書類及び帳簿の備え付け)
第53条 この法人の事務所には、次の書類を備えなければならない。
定款、定款施行細則、役員名簿、会員名簿、総会及び理事会に関する書類、会計関係書類、その他必要な書類
第54条 この定款施行について必要な細則は、総会の議決を経て、理事長がこれを定める。
附 則
1 この定款は、この法人の成立の日から施行する。
2 この法人の成立当初の役員は、別表に掲げるものとする。
3 この法人の設立当初の役員の任期は、第16条第1項の規定にかかわらず、この法人の成立の日から平成13年12月末日までとする。
4 この法人の設立当初の事業年度は、第47条の規定にかかわらず、この法人の成立の日から平成13年12月末日までとする。
5 この法人の設立当初の事業計画及び収支予算は、第42条の規定にかかわらず、設立総会の定めるところによる。
6 この法人の設立当初の会費は、第8条の規定にかかわらず、設立総会の定めるところによる。
定 款 施 行 細 則
定 款 施 行 細 則
2001年2月17日総会議決
2004年2月15日改正
第1章 地域組織及びブロック
(地域組織)
第1条 この法人の会員(購読会員を除く。以下同じ。)の自主的活動を促進し、会員相互の連携を密にするために、都道府県単位に地域世話人を置き、地域組織を置くことができる。
2 地域世話人は、運営会員の中から都道府県単位の集会で選出する。
3 地域組織は、地域会員集会の議決で設置する。
(地域ブ□ツク)
第2条 地域ブロックを次のように定め、ブロック幹事を地域ブロックに所属する運営会員の中からそれぞれ選出する。
各ブロックの選出幹事数は、当該ブロックの会員数を目安に理事会が決定する。
地域ブロック 地域に属する都道府県
北海道 北海道
東北 青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島
北関東 茨城、栃木、群馬
南関東 埼玉、千葉、神奈川、東京
北陸 新潟、富山、石川、福井
東海 岐阜、静岡、愛知、三重
東山 山梨、長野
近畿 滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山
中国 鳥取、島根、岡山、広島、山口
四国 徳島、香川、愛媛、高知
九州 福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄
第2章 部
(部)
第3条 この法人の活動を推進するため、以下に定める部をおき、それぞれ担当部長をおく。部長は部担当幹事を兼任する。
2 担当部長は各部より運営会員の中から選出し、理事会がこれを議決する。
(1) 自給部 食料自給を推進するための調査・研究、普及・啓発、ネットワークの運営
(2) 生産部 有機農業の生産技術、資機材に係る調査・研究、普及・啓発、相談
(3) 生活部 健康な食べ方と有機生活に係る調査・研究、普及・啓発、相談
(4) 種苗部 自家採取の普及、在来種等の保存に係る調査・研究、普及・啓発、ネットワークの運営
(5) 科学部 食品安全と環境保全等に関する調査・研究、関連情報の普及・啓発、ネットワークの運営
(6) 提携と基準部 生産者と消費者の提携の推進、有機農業生産、有機生活等に係る基準、資格等の設定、関連団体と連携、協力
(7) 青年部 青年層への有機農業の普及
(8) 国際部 諸外国の有機農業関連団体等との交流、有機農業の推進のための国際協力
(9) 事業部 本法人活動に係る書籍、資料、映像資料等の作成、刊行、頒布、講習会等の開催
(10) 総務部 会の運営に係る総合的な事務の統括
(11) 組織部 会員間の交流の促進
(12) 財政部 会の財務及び会計に係る経理の統括
(13) その他理事会が必要と認めた部
第3章 会 誌
第4条 この法人の会誌は、『土と健康』と名付ける。
2 会誌は、本法人記事、会務報告の他研究報告、会員の関わる各種集会の通知など編集委員会が適当と認めた事項を掲載する。
3 会誌は、会員に配布するものとする。
4 会誌は、会員以外にも有料で頒布することができる。
第4章 各種事業
第5条 この法人の目的を達成するため、理事会の議を経て、講演会、研究会を随時開催することができる。
第5章 理事の選出
第6条 この法人の理事は、理事会において次の幹事の中から選出する。理事会はこれを総会に推薦し、総会で選任する。
(1) ブロック幹事
(2) 部担当幹事
(3) 推薦幹事
(理事長及ぴ副理事長の選出)
第7条 選任された理事は、直ちに理事長及び副理事長を選出する。
第8条 監事は、理事の2名以上の推薦により候補者を選出し、総会で選任する。
第9条 理事長は、理事の任期満了前までに、次期幹事の選出を終了させなければならない。
第6章 幹 事
(幹事の定数)
第10条 この法人には次の幹事を20名以上置くものとする。
(1) 細則第2条に定めるブロック幹事
(2) 細則第3条に定める部担当幹事
(3) 細則第13条に定める推薦幹事
2 幹事の任期は、2年とする。ただし再任は妨げない。
(地域世話人及び幹事の責務)
第11条 地域世話人は年1回以上地域集会を開き、会員、幹事及ぴ理事と緊密に連絡を取り、地域活動を推進する。
2 ブロック幹事は、総会及び理事会の議決に基づき地域活動を推進する。
3 部担当幹事は、総会及び理事会の議決に基づき部活動を推進する。
(欠員補充)
第12条 ブロック幹事又は地域世話人が欠けたときは直ちに補充しなければならない。
(推薦幹事の選任)
第13条 理事長は、理事会の議決を経て、運営会員の中から推薦幹事を若干名選任することができる。
2 推薦幹事の任期は2年とする。
3 推薦幹事は、理事会の要請に応じて任務に関する報告を行う。
第7章 幹事会
第14条 幹事会
幹事会は、ブロック幹事、部担当幹事及び推薦幹事で構成し、理事長の招集により年1回以上開催する。
2 幹事会は、理事会へ本会の運営について、及び理事会により付託された事項に関して意見を具申する。
3 幹事会の議長は、理事長の指名により幹事の中から選出し、議事はあらかじめ通知された事項及び緊急を要する案件とする。
4 幹事会の議事については、定款第36条の規定を準用する。
第8章 参 与
第15条 この法人には参与を若干名置くことができる
2 参与は、必要に応じて理事会が議決し、理事長が委嘱する。
3 参与は、理事会の議決に基づき本会の活動を豊かな知識経験の見地から推進する。
4 参与の任期は、理事会が定める。ただし、再任することができる。
第9章 事務局長の選出
第16条 事務局長の選任は、複数の理事の推薦のあった者より、理事会の議を経て理事長が任命する。
第10章 編集委員会
第17条 この法人に会誌編集委員会をおき、委員若干名をおく。ただし編集委員長は理事とする。
2 任期は、委嘱の日より2年とする。ただし再任を妨げない。
3 編集委員長及び編集委員は、それぞれ理事会の議を経て、理事長が委嘱する。
4 編集委員会は、会誌の編集、発行の事務の運営にあたる。
附 則
本細則は、この法人の成立の日から施行する。
以上
日本有機農業研究会/ストップ遺伝子組み換え汚染種子ネットワーク/食政策センター/ピジョン21/大地 を守る会/食農ネット/市民の大豆食品勉強会/全日本農民組合連合会/ぽらん広場全国事務局/有機ネットちば/遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン/反農蘂東京グループ/日本消費者連盟(12団体)
日本有機農業研究会 結成趣意書
科学技術の進歩と工業の発展に伴って、わが国農業における伝統的農法はその姿を一変し、増産や省力の面において著しい成果を挙げた。このことは一般に農業の近代化と言われている。
このいわゆる近代化は、主として経済合理主義の見地から促進されたものであるが、この見地からは、わが国農業の今後に明るい希望や期待を持つことは甚だしく困難である。
本来農業は、経済外の面からも考慮することが必要であり、人間の健康や民族の存亡という観点が、経済的見地に優先しなければならない。このような観点からすれば、わが国農業は、単にその将来に明るい希望や期待が困難であるというようなことではなく、きわめて緊急な根本問題に当面していると言わざるをえない。
すなわち現在の農法は、農業者にはその作業によっての傷病を頻発させるとともに、農産物消費者には残留毒素による深刻な脅威を与えている。また、農薬や化学肥料の連投と畜産排泄物の投棄は、天敵を含めての各種の生物を続々と死滅させるとともに、河川や海洋を汚染する一因ともなり、環境破壊の結果を招いている。そして、農地には腐植が欠乏し、作物を生育させる地力の減退が促進されている。これらは、近年の短い期間に発生し、急速に進行している現象であって、このままに推移するならば、企業からの公害と相俟って、遠からず人間生存の危機の到来を思わざるをえない。事態は、われわれの英知を絞っての抜本的対処を急務とする段階に至っている。
この際、現在の農法において行なわれている技術はこれを総点検して、一面に効能や合理性があっても、他面に生産物の品質に医学的安全性や、食味の上での難点が免れなかったり、作業が農業者の健康を脅かしたり、施用する物や排泄物が地力の培養や環境の保全を妨げるものであれば、これを排除しなければならない。同時に、これに代わる技術を開発すべきである。これが間に合わない場合には、一応旧技術に立ち返るほかはない。
とはいえ、農業者がその農法を転換させるには、多かれ少なかれ困難を伴う。この点について農産物消費者からの相応の理解がなければ、実行されにくいことは言うまでもない。食生活での習慣は近年著しく変化し、加工食品の消費が増えているが、食物と健康との関係や、食品の選択についての一般消費者の知識と能力は、きわめて不十分にしか啓発されていない。したがって、食生活の健全化についての消費者の自覚に基づく態度の改善が望まれる。そのためにもまず、食物の生産者である農業者が、自らの農法を改善しながら消費者にその覚醒を呼びかけることこそ何よりも必要である。
農業者が、国民の食生活の健全化と自然保護・環境改善についての使命感にめざめ、あるべき姿の農業に取り組むならば、農業は農業者自身にとってはもちろんのこと、他の一般国民に対しても、単に一種の産業であるにとどまらず、経済の領域を超えた次元で、その存在の貴重さを主張することができる。そこでは、経済合理主義の視点では見出だせなかった将来に対する明るい希望や期待が発見できるであろう。
かねてから農法確立の模索に独自の努力をつづけてきた農業者や、この際、従来の農法を抜本的に反省して、あるべき姿の農法を探求しようとする農業者の間には、相互研鑽の場の存在が望まれている。また、このような農業者に協力しようとする農学や医学の研究者においても、その相互間および農業者との間に連絡提携の機会が必要である。
ここに、日本有機農業研究会を発足させ、同志の協力によって、あるべき農法を探求し、その確立に資するための場を提供することにした。
趣旨に賛成される方々の積極的参加を期待する。
昭和46年10月17日
日本有機農業研究会
「有機農業に関する基礎基準2000」
2000年2月6日 総会採択の概要と解説(2006年2月一部改正)
Ⅰ「有機農業に関する基礎基準 2000年」の概要
日本有機農業研究会は、次の「解説」にみるように、自給と提携を基本にした活動をしていますが、早くから表示・基準問題にも取り組んできました。有機農産物の定義については1988年に提示し、基準については1996年から検討をして第27回総会(1999年2月)で「有機農業に関する基礎基準1999年」を採択し、そしてJAS認証制度を取り入れたうえで2000年2月、「有機農業に関する基礎基準2000年」を採択しました。
「有機農業に関する基礎基準2000年」の構成をみてみましょう。
はじめに、本会有機農業運動の目標ともいうべき、次のような10項目からなる「有機農業のめざすもの」を掲げてあります。有機農業への会員の想いはそれぞれですが、概ねの共通項を簡潔に述べたものです。
1 有機農業のめざすもの
【安全で質のよい食べ物の生産】
安全で質のよい食べ物を量的にも十分に生産し、食生活を健全なものにする。
【環境を守る】
農業による環境汚染・環境破壊を最小限にとどめ、微生物・土壌生物相・動植物を含む生態系を健全にする。
【自然との共生】
地域の再生可能な資源やエネルギ-を活かし、自然のもつ生産力を活用する。
【地域自給と循環】
食料の自給を基礎に据え、再生可能な資源・エネルギ-の地域自給と循環を促し、地域の自立を図る。
【地力の維持培養】
生きた土をつくり、土壌の肥沃度を維持培養させる。
【生物の多様性を守る】
栽培品種、飼養品種、及び野性種の多様性を維持保全し、多様な生物と共に生きる。
【健全な飼養環境の保障】
家畜家禽類の飼育では、生来の行動本能を尊重し、健全な飼い方をする。
【人権と公正な労働の保障】
安全で健康的な労働環境を保障し、自立した公正な労働及び十分な報酬と満足感が得られるようにする。
【生産者と消費者の提携】
生産者と消費者が友好的で顔のみえる関係を築き、相互の理解と信頼に基づいて共に有機農業を進める。
【農の価値を広め、生命尊重の社会を築く】
農業・農村が有する社会的・文化的・教育的・生態学的な意義を評価し、生命尊重の社会を築く。
次に、「二 遺伝子組換え技術」について、まず<考え方>として、「遺伝子組換え技術により育成された品種の種子・種苗、作物体及び収穫物並びにそれらに由来する生産物は、使用してはならない」ことを明記しています。そして、<基準>においても、「1組換えDNA技術により育成された品種の種子・種苗は、使用してはならない」としています。
本基礎基準では、各項目について、<考え方>と<基準>を設け、<考え方>では望ましいあり方や基本となる考え方を示しています。<基準>は、有機農産物を認証する際の基準となるものです。
以下、「三」以降では、次のような項目について、それぞれ<考え方>と<基準>を記しています。なお、これには、別表として、使用可能な資材リストが付けられています。
三 有機農業への転換
1 圃場の転換期間
四
1
2 栽培作物とその品種の選択
3 作物の多様性
4 土づくりと施肥
5 病害虫、雑草の管理
6 プラスチックの使用
7 野生植物
8 機械及び機具の使用
9 輸送、選別、調製、洗浄、貯蔵、包装その他の工程
10 景観
五 水田稲作
1 生産
2 病害虫及び雑草の管理
3 乾燥
4 籾擦りと精米
六 加工食品
1 一般原則
2 原材料
3 食品添加物及び加工助剤の使用
4 製造・加工方法
別表1~3
Ⅱ解説 日本有機農業研究会における有機農業に関する基礎基準づくりの経過(要旨)
※本稿は、本会発行『「有機農業に関する基礎基準2000」とJAS認証制度をめぐる動き』所収の同表題解説の要旨です。 日本有機農業研究会・提携と基準部
◇はじめに・・「基礎基準」の性格と特徴
2000年2月の第28回総会(しまね)では、前年総会に採択された「有機農業に関する基礎基準1999年」を改定した有機農業に関する基礎基準2000年」が承認され、日本有機農業研究会の現実的な有機農業生産基準としての第一歩を踏み出しました。
折から2000年1月20日には、国の有機認証制度の基準となる「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」(JAS法)に基づく「有機農産物」及び「有機農産物加工食品」の日本農林規格(JAS規格)が農林水産省から告示されたところです(告示59号、60号)。周知のように、1999年7月のJAS法一部改正により、農産物および加工食品に「有機」等の表示を付して販売するには、これらの規格に適合していなければならないだけでなく、農林水産省管轄の登録認定機関による認定(認証)を受けたものでなければならなくなりました(2000年6月10日施行、経過措置により2001年4月より全面実施)。
本会の「基礎基準2000年」は、基本的には自主的なものですが、同時に国の基準であるこれらのJAS規格を満たした内容になっています。国の制度では、指定農林物資とされた「有機農産物」及び「有機農産物加工食品」については、その旨の表示や情報提供をするには、認証(認定)の有無にかかわらず、この規格を満たさなければならないので、避けて通れないからです。
「自主基準」であるゆえんは、主に次の三点です。
一つめは、冒頭に「有機農業のめざすもの」を10項目ほど掲げ、日本の有機農業運動が重きを置いてきた「地域自給」(身土不二、地産地消)や「生産者と消費者の提携」の理念をはっきりと打ち出したことです。
二つめは、農業技術と環境に係る基準として、目標や望ましいあり方を「考え方」として方向性を示したうえで、実際の「基準」を示す二段構えをとっていることです。たとえば、遺伝子組換え作物については原則として一切使わないことを打ち出したり、プラスチックの使用について塩ビなど一定のものの使用を制限したり、また、地域自給の観点から「輸送距離について、できるだけ短いことが望ましい」という考え方を示しています。
同時に、たとえば遺伝子組換え作物のとくに堆肥原料等への使用については一定程度の期限をつけて使うことという基準とし、実際的な基準にしてあります。
三つめは、国際的な視野においても、自主的な運動の視点をもつ国際有機農業運動連盟(IFOAM)の「有機生産と加工食品の基礎基準」との連携を図っていることです。ただし、単にIFOAMの基礎基準と同じにするのではなく、アジアにおける水田稲作のもつ意義をはじめ上述の地域自給など、独自の視点を強調したものになっています。
このように、本会の基礎基準は、有機農業の農業技術や環境条件について、あるべき方向性を示しながら、かつ現状に即しながら、内外に明らかにしたものといえます。
また、「基礎基準」とされたことは、会員団体や会員による認証団体等が基準を作る際に準拠する基本になりうるものになるようにしたからです。実際的なものであることから、「恒久的なもの」ではなく、今後改訂を重ねていくものです。(「基礎基準2000年」については、運用指針が内部にあります。)
会として基準を決めることについては、さまざまな議論がありました。有機農業はそもそも自由で自在なものであり、栽培方法についても地域条件や作目、経験などによって細かな点ではそれぞれ違います。理念も目的も、農法についても生き方や暮らし方、哲学の現れであり、多様であるからです。しかしながら、そうした本来の困難さはあるにしても、これまでの会の創設以来、すでに四半世紀を越える経験・蓄積のなかで、ある程度このようなものが有機農業といえるものだという農法が確立されつつあり、そのようなものの「共通項」も示されつつあります。
そうした前提で、次にみるように1996年には自主的な基準の検討が具体的に始まり、概ね次に記された経過を経て、基礎基準が定められたのです。
本会の基準づくりの経過をざっとみてみましょう。
◇1 表示問題と「有機農産物の定義」の設定(1988年)
本会が「有機」等の表示問題に具体的に取り組んだのは、「有機」等の表示が小売店や青果物市場に氾濫していた1987年のことです。
周知のように日本では、有機農業は、本会の創立(1971年)の前後から起きていた草の根の農業者・消費者のあるべき農業・食べ物や食べ方への追求から始まりました。生産者と消費者が直結し、自主的な配送による産直・共同購入という方法がとられ、「提携運動」「産消提携」と呼ばれて発展してきました。1978年には「生産者と消費者の提携の方法」といういわゆる「提携一〇か条」がとりまとめられて、会の活動の機軸となっています。
「提携」では、生産者と消費者は、形態はさまざまですが継続的な会や生協を作り、両者がじかに話し合い、作付や価格を取り決め、農法についても話し合い、相互理解と信頼関係の上にたった「顔のみえる」なかで農産物が取り交わされます。生産者にとっても、消費者にとっても、その流通経路も価格の成り立ちも「みえる流通」となっています。自主的な流通と会の活動を通して情報が行き交い、しかもその取引関係は継続的であるので、あらたまった表示も必要なく、また、偽りのものやウソ表示などの入り込む余地はほとんどありません。
有機表示問題が起きたのは、このような提携運動の外側、すなわち、一般の市場流通においてでした。本会は、表示問題や基準づくりの動きに対して、まず、1987年、会としての見解を公にしました(「有機農産物に対する規格基準等についての見解」農林水産大臣はじめ同省関係部局長に提出、併せて機関誌『土と健康』1987年10月号に掲載)。
翌1988年8月には、現状では「人々の有機農業への信頼感を損なう」「より高い目標に向かい努力している生産者の意欲を減退させるおそれ」があることから、会としての「有機農産物の定義」を定めました。
「定義:有機農産物とは、生産から消費までの過程を通じて化学肥料、農薬等の人工的な化学物質や生物薬剤、放射性物質などをまったく使用せず、その地域の資源を出来るだけ活用し、自然が本来有する生産力を尊重した方法で生産されたものをいう」 (なお、この定義には、1998年2月の総会で、遺伝子組換え作物の原則使用禁止が加えられ、「・・放射性物質、遺伝子組換え種子および生産物等をまったく使用せず・・・」と改定しました。)
ここでは、定義を「商品差別化のためのもの」ととらえずに、むしろ「継続的な運動目標」として理解するところに真意があるとしたうえで、「会として行政機関等を含め外部に対して、上記定義に合わない農産物に有機農産物の呼称を用いたり、用いさせないように働きかけていくこととしたい」と述べています(『土と健康』1988年9月号)。
このように、本会は最も早い時点で「有機農産物」の定義について示しましたが、その際に定義を敷衍した生産(栽培)基準については、「生産者相互、あるいは生産者と消費者間相互の交流を通じて定義が指向する目標に向かってさらに努力すること」としました。
◇2 有機表示ガイドライン・JAS法改正への反対運動(1991年~93年)
その後、農林水産省は1991年4月から「有機農産物等の特別表示ガイドライン」の検討を始めます。これに対して本会は、表示基準等の設定をすること自体に反対する立場を明らかにしました(「農水省の青果物等特別表示検討委員会設置方針についての本会の見解」として『土と健康』1991年5月号に掲載)。
素案が出された後、本会だけでなく、主婦連合会、消費科学連合会、東京都地域婦人団体連絡協議会、日本消費者連盟、食・農ネットなどの消費者団体が、表示ガイドラインのなかに「減農薬」や規定の緩い「無農薬」などの表示区分が入っていてわかりにくい表示ガイドラインであることに対して、反対運動をくりひろげました。消費者団体の主張は、主に、「有機農産物」という表示区分一本にして簡潔なものにすること、そして、表示対策だけでなく、有機農業推進策を同時に進めることなどでした。
本会や「大地を守る会」「生活クラブ生協」などの有機農産物流通に関係する団体なども根本的なところから表示ガイドラインを批判しました。記録があるので詳細は省きますが(文末参考文献参照)、農林水産省の「有機農産物」の表示に対する考え方は、有機農業という“特別の栽培方法”をすることによって“価値が高くなる”というものであったので、そのように特殊視するのではなく、有機農業を本来のあたりまえの誰もが求める農業として農政の根幹に位置づけ、農政全体として推進すべきであり、表示規制が先行するのは政策の方向付けが逆立ちしているという批判をしたのです。
しかし、反対運動にも関わらず、1992年10月に表示ガイドラインは制定され(次官通達)、翌93年4月から施行されました。さらに、1993年に入ると、有機農産物の生産基準を想定した「作り方JAS(特定JAS)」をJAS法に導入するJAS法一部改正法案が浮上しました。これに対しても、同様の理由から、とくにJAS法の一規格に「有機農産物」の生産基準が矮小化されることに対して反対をし、国会農林水産委員会でも反対意見を代表幹事が述べました。しかし、これも、1993年6月、改正法案が可決成立し、「有機」関係の表示の認証制度の枠組みが定められました。
◇3 基準検討委員会の発足と討議資料の作成(1996年~1997年)
1 本会の基準検討委員会の発足(1996年)
1995年からは、表示ガイドラインの見直しのための検討委員会が再開されました。表示ガイドラインは施行されていたので、これには、本会からも事務局長(当時)が委員として参加し、積極的に本会の意見を表明しました。また、農林水産省は、生産基準についての研究会も設置したので、これにも会から生産者を委員として派遣し、参加しました。食糧管理法の廃止にからんで、米麦も表示ガイドラインの対象品目とした際にも、意見を表明するなど、概ね積極的な関わりをもってきたところです。
そのような活動を通して、ガイドラインに反対する意見を出すだけでなく、自分たちの意見を実地に示すことの意義も明らかになってきました。「自分たちのめざす有機農業とはこのようなもの」「自分たちはこのようにやっている」ということの共通認識を明文化して示すことが求められるようになってきました。
前述したように、1987年と88年に規格化に対して見解を示した当時は、「有機農産物の定義」に合う生産方法は、まだ全体として確立されたものではなく、「継続的な運動の目標」とされたのでしたが、本会設立から四半世紀経って、有機農業の経験も積み、農業技術的にも実績ができてきたことから、自主的な生産基準をつくろうという機運が出てきました。
1996年2月の全国幹事会・総会では、「独自の『有機農業とは何か』について、・その理念や原理、・社会的意義ないし主要目標(健康・安全・環境、地域自給、提携など)、・技術的側面についてあるべき方法などを、「定義」「基準」あるいは「規範」「取り決め」という形でとりまとめる方向へ向けて検討を始める」(全国幹事会資料より)ことが提案されました。そしてその年の8月、全国幹事会では、「基準検討委員会」を設置することを決めました。それにより、9月に、本会の「基準検討委員会」が19名(委員長澤登晴雄代表幹事、委員のうち8名が生産者)で発足しました。
2「討議資料」の作成(第1次1997年2月、第2次1998年2月)
基準検討委員会では、まず、国際有機農業運動連盟(IFOAM)の「有機農業及び食品加工の基礎基準(1996年版)」を精読し、日本の状況とのすり合わせを行うことにしました。主に生産者の委員がIFOAM基礎基準の各項目に沿って自分たちの経験・やり方を出し合い、「私たちだったらこの項目はこう書く」という視点から話し合って検討し、基礎基準の各項目を書き直していったのです。
なぜIFOAM基礎基準を参考にしたかというと、これは、
・有機農業生産者が中心になってつくった欧米の有機農業運動団体の基準を基につくられたものであること、
・また逆に、それを基礎にして多くの団体の基準がつくられていること、
・EU基準、米国基準、コーデックス委員会基準案も多かれ少なかれ、同様の枠組みとなっていること、
・「基礎」になる基準として、IFOAM総会等で常に検討が加えられ更新されており、国際有機農業運動の規範としての位置づけを確立している、
などの理由から、本会が基準を考える際の有力な枠組み及び内容を提示していると考えたからです。
IFOAM基礎基準の特徴は、上記の他に、
・「目的」「理念」などについては、直接「理念・目的」と規定することを避け、有機農業が社会的に認められてきた背景などを「前文/序」として掲げるなどの工夫をしている、
・「有機農業の目標」を冒頭に掲げて、有機農業は、社会・文化的側面、倫理的側面、環境保護的側面、さらに労働などの社会的公正にも言及している、
・農業の技術的な基礎基準として、「目標・推奨項目/望ましい方法」と「最低の要件」の二段構えをとり、現状を認めつつ、「あるべき方向性」を示すものとなっている、
・すなわち、同基準は、現状を反映したものであり、改訂を重ねていくものであることが示唆されていること
などがあげられます。
このようなIFOAM基礎基準の特徴は、基準検討で本会がめざしている、農業の技術的・環境的側面の現状の到達点の共有、有機農業をいっそう広めるための目標の明確化、有機農業の規範を示すなどの目的にも合っています。これらが、IFOAM基礎基準を精査しようとした理由です。
基準検討委員会は、精力的に検討を重ね、1997年2月総会(山梨県石和)において、中間報告として「IFOAM基礎基準を参考にした討議資料(第1次)」を発表しました。
翌1998年2月総会(京都)においては、「有機農産物の定義」を一部改定(遺伝子組換え種子・作物の使用禁止)するとともに、当面、「有機農業の定義」に代わるものとしての「有機農業のめざすもの」(10項目)を提案し、承認。「IFOAM基礎基準を参考にした討議資料(第2次)」についても発表し、承認を受けました。
この間、活発とはいえないものの、いくつかの地域において、討議資料を題材にした意見交流会やシンポジウムなどが開催されています。
3 IFOAMの「基礎基準」とは
ここで、国際有機農業運動連盟(IFOAM)について少し述べておきましょう。
IFOAM(International Federation of Organic Agriculture Movement) は80カ国以上の約500団体の有機農業団体及び関連団体のつくる世界大のNGOです。1972年、国連環境と人間会議がストックホルムで開かれて反公害運動、環境保護運動が盛り上がったうねりと連動してヨ-ロッパで生まれ、その後欧米の団体を中心に活動が行われてきました。有機農業の普及、政策提言、意見の反映、生産・加工・流通基準の設定と更新などの活動を行い、隔年にIFOAM科学会議(いわゆる世界大会)を開催しています。現在は第三世界にも活動が広がっています。
IFOAMは、1982年、有機農業生産者団体が中心になって「有機農業及び食品加工の基礎基準」を作成し、その後改定を加えて更新してきました。これは、有機農業に取り組むための世界全般に通用する方法の枠組みを記述したものです。さらに、「社会的権利と公正、コーヒー・カカオ・茶、投入物の評価に関するガイドライン」も付け加えられています。
この基礎基準は、欧米の有機農業運動の発展と軌を一にしてきました。すなわち、欧米の有機農業生産者団体は、表示の混乱に対していち早く基準と認証を整備し、認定マークによる表示により積極的に市場での製品差別化を行って一定の地位を占めていくという方法で有機農業を推進させてきました。基礎基準は、これをひな型として示し、そのような方法をよりいっそう普及させ、国際的な市場においても機能させようというものです。
この過程で、加工業者、流通業者の影響力が増大していることは否めません。しかしながら、いずれにしてもこのような方法は各国で法制化され、さらにEU基準や米国全国基準、コーデックス委員会委員会基準案にも同様の枠組みが反映されるに至っています。
本会は、IFOAMの古くからの会員団体であり、総会への出席などを通して連携を保ってきました。しかし、その活動方針に歩調を合わせていたわけでは決してなく、むしろ、IFOAMの市場指向の基準認証推進には批判的な立場をとり続け、IFOAM総会に参加するたびに、「提携」と、そして地域の自然と資源と文化を活かした小農有畜複合型の多品目栽培による農家自身の自給を基礎にした地域自給の意義を説いてきました。1993年8月には、日本で第一回IFOAMアジア会議を本会が中心になって「提携」をテーマに開催したこともあり、IFOAMにおいても、第三世界の参加や欧米における「提携」と同じようなCSA(地域が支える農業)や直接取引の増加などととともに、そうした関心も広がってきています。
◇4 「基礎基準」の策定と認証問題(1997年以降)
認証問題について本会は、「基準検討委員会」(1996年9月発足)において問題点をとりまとめることとし、折々に関心を払ってきました。1997年になると、農林水産省は、「有機食品の検査・認証制度検討委員会」を発足させます。この委員会には、本会の推薦する学識者が参加することにしました。基準はともかく、認証制度の導入それ自体に対して反対したり否定する声が会員のあいだに少なからずあったからです。
もとより、農林水産省の有機認証制度の導入は、国際的な協調やグローバル化のなかで強まってきた「国際規格」への整合化の動きのなかで図られたものです。GATTのウルグアイ・ラウンド後のWTO(世界貿易機関)設立協定のなかで、「国際規格」を決める場としてFAO/WHO合同食品規格委員会(コーデックス 委員会)が用いられるようになりました。
コーデックス委員会では、その食品表示部会において「有機」の生産等の基準(ガイドライン)が検討されてきましたが、1998年5月の部会で合意され、翌99年7月に本決まりとなりました(畜産は2000年)。したがって、日本の農林水産省の制度化は、そこでの有機認証制度の審議の進展に合わせて進められてきました。
農林水産省は、1998年11月、先の検査・認証制度検討委員会の「早急に制度導入」という報告を得て、1999年三月には、認証制度をJAS法において実施するためのJAS法一部改定案を国会に上程します。これに対して本会は反対し、通過の際には付帯決議を付けるのに努力し、その後も『「有機農業に関する基礎基準2000」とJAS法一部改定をめぐって』(本会発行)に収載したように一連の動きがあるわけですが、改正法は7月に成立して公布され、それが2000年6月になって施行されました。
このような動きのなかで、本会の「討議資料」として提案された基準素案も、1999年2月、第27回総会(茨城県つくば市)において、「有機農業に関する基礎基準1999年」として提案・採択されました。そして、冒頭に述べたように、今年2000年2月の総会で、実際に使えるものとして「基礎基準2000 年」がスタートを切ったのです。
そして認証問題に関しては、1999年8月24~25日に開催された全国幹事会で、JAS法改正案に対する取組みの経過や基準・認証問題への取組み、各地での認証に向けての報告の後、本会としての今後の対応が協議し、「本会が検査・認証に係る準備をする」という文言で、本会として、何らかの方法で認証に係る方向が打ち出されました。すでに、各地の連携を図るために、認証連絡協議会が開催されてきたところです。その後も連携を図りながら、2000年8月現在、8団体が農林水産省の登録認定機関になるための申請を出しています。
◇おわりに
以上が、本会の基準づくりについての経過のあらましです。本会は、基準と認証問題に関して、次のようないくつかの冊子を出してきました。ただし、1993年、および98年のものはすでに品切れです。前回の冊子を刊行した1999年2月以降、ほぼ一年半経ったこの夏までの動きは、『「有機農業に関する基礎基準2000」とJAS認証制度をめぐる動き』(2000年8月刊)に収められています。ご参照いただければ幸いです。
参 考 文 献 案 内
・『有機農業の提唱』
一楽照雄他 日本有機農業研究会 1989年
・『アジア型有機農業のすすめ・・国際有機農業運動連盟アジア会議記録と提言(現代農業臨時増刊)』
日本有機農業研究会協力編集 農山漁村文化協会 1994年
・※『全国有機農業者マップ』(第3版)
日本有機農業研究会 2005年3月
・※『有機農業ハンドブック・・土づくりから食べ方まで』
日本有機農業研究会発行・農山漁村文化協会発売 2001年10月
・※『IFOAM 有機農業と食品加工の基礎基準(日本語版)』
日本有機農業研究会 2001年3月
・『IFOAM 有機生産および加工の基礎基準(1998年11月)』(英文および日本語訳)
日本有機農業研究会 1999年8月
・『有機農業の基準問題・・「提携と基準研究部会」報告』
日本有機農業研究会 1993年2月
・『有機農産物の「表示」をめぐる現状と課題・・有機表示ガイドライン・JAS法改正の経過』
国民生活センター 1993年3月
・『有機農業の基準問題への取組み』
日本有機農業研究会 1998年2月
・※『「有機農業に関する基礎基準」の策定と認証問題』
日本有機農業研究会 1999年2月
・※『「有機農業に関する基礎基準2000」とJAS認証制度をめぐる動き』
日本有機農業研究会 2000年8月
・※ 日本有機農業研究会会誌 『土と健康』(月刊)
※印は、本会事務局で取り扱っております。
「有機農業の推進に関する法律」が制定されました
日本有機農業研究会 提携と基準部
基本理念を定め、総合的な政策の推進へ
2006年12月の臨時国会(第165回国会)において、「有機農業の 推進に関する法律」(略称有機農業推進法)が全会一致で成立しま した。超党派の有機農業推進議員連盟(谷津義男会長、ツルネン・ マルテイ事務局長、161名議員加盟)の提案によるもので、まず 12月5日、参議院農林水産委員会において委員長提案により審議な し・全会一致で通過、翌6日、同本会議でも趣旨説明の後、採決、 通過。衆議院も同様に7日に農林水産委員会、8日の本会議で成立 しました。その後、12月15日に公布され、同日、施行されました。
なお、参議院農林水産委員会では、提案に先立ち、11月30日に2 議員からの質疑がなされています。一つは、議連会員の和田ひろ子 議員がこの有機農業推進法の評価について農林水産大臣に質問、松 岡利勝大臣は、有機農業推進議員連盟の幅広い活動と努力に感謝す ると共に、「農林水産省挙げて、歓迎し、感謝している」と述べて います。同委員会ではさらに、議連副会長福本潤一議員が有機農業 の推進への取組みの現状について質問、農林水産省西川孝一生産局 長は、「農業生産全体の在り方を環境保全に貢献している営みに転 換するということを基本として、現在環境保全型農業を推進してい る」と、その具体的取組みについて述べました。
この法律は、「有機農業の推進に関し、基本理念を定め、並びに 国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、有機農業の推 進に関する施策を総合的に講じ、もって有機農業の発展を図るこ と」を目的とするものです(第一条)。農林水産大臣は基本理念に のっとり有機農業の推進に関する基本方針を定め、都道府県など地 方公共団体はそれに即して推進計画を立てるなど、有機農業の推進 に関する総合的な施策を行うことが責務となります。
したがって、今後、国が策定することになる基本方針にどのよう なことがらが盛り込まれるか、そしてさらに、都道府県段階、市町 村段階でどのような推進計画をつくるかが課題になってきます。な お、地方公共団体の推進計画の策定については、「定めるよう努め なければならない」と、努力規定になっています。これは、すでに 他の条例や名称によって進めている白治体もあるなど、多様な取組 みがありえると説明されています。
「消費者との連携の促進」も基本理念に
この法律では、次のようにこの法律における「有機農業」を定義 しています。有機JAS規格における「有機農産物」の生産方法の 規定よりも広い意味あいになっています。
「この法律において『有機農業』とは、化学的に合成された肥料 及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないこ とを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低 減した農業生産の方法を用いて行われる農業をいう」(第2条)
基本理念(第3条)では、「有機農業の推進」をする際の理念と して、まず、「農業者が容易に有機農業に従事することができるよ うにすることを旨として行われなければならない」こと、「農業者 その他の関係者が積極的に有機農業により生産される農産物の生 産、流通又は販売に取り組むことができるようにする」とともに、 「消費者が容易に有機農業により生産される農産物を入手できるよ うにすることを旨として行われなければならない」ことが述べられ ています。
その中で、有機農業の推進は、「農業の持続的な発展及び環境と 調和のとれた農業生産の確保が重要」、「有機農業が農業の白然循環 機能を大きく増進」、「農業生産に由来する環境への負荷を低減」す るものであること、また、消費者にとっても、「消費者の安全かつ 良質な農産物に対する需要が増大」しているが、(有機農業の推進 は)そのような「需要に対応した農産物の供給に資する」ものであ ると記されています。
また、基本理念では、有機農業の推進の際には、「消費者の理解 の増進が重要」なので、「農業者その他の関係者と消費者との連携 の促進を図りながら行われなければならない」こと、また、「農業 者その他の関係者の白主性を尊重しつつ行われなければならないこ と」とも記されています。
そのほか、同法では、国及び都道府県は、有機農業者等の支援 (第8条)、技術開発等の促進(第9条)、消費者の理解と関心の増 進(第10条)、有機農業者と消費者の相互理解の増進(第11条)、調 査の実施(第12条)、国及び地方公共団体以外の者が行う有機農業 の推進のための活動の支援(第13条)をすること、国の地方公共団 体に対する援助(第14条)、そしてまた、有機農業者等の意見の反 映について必要な措置を講じること(第15条)を定めています。
地産地消・地域白給、食農教育、まちづくりも視野に
このように、この法律は、有機農業の推進を「環境と調和のとれ た農業生産」であり、また「農業の白然循環機能を大きく増進」、 「農業生産に由来する環境への負荷を低減」するものであること、 また、消費者にとっても「消費者の安全かつ良質な農産物」を供給 するものであると位置づけた初めての国の法律です。いわゆる理念 法であり、上述のように、これをどのように活かすかは、今後の基 本方針や推進計画、あるいは、他の関連施策との連携にかかってき ます。同時に、いうまでもなく、各地・全国における運動のあり方 が決め手になるでしょう。
有機農業の推進に関する基本的な方針の公表について
有機農業の推進に関する法律(平成18年法律第112号)第6条第1項の規定に基づき、有機農業の推進に関する基本的な方針を次のとおり定めたので、同条第4項の規定に基づき、これを公表する。
令和2年4月30日
農林水産大臣 江藤 拓
有機農業の推進に関する基本的な方針
有機農業の推進に関する法律(平成18年法律第112号。以下「有機農業推進法」という。)に基づき策定・公表されてきた「有機農業の推進に関する基本的な方針」(以下「基本方針」という。)は、我が国の農業における有機農業の役割を明確にするとともに、各種の関連施策を総合的かつ計画的に講じていく基(もとい)となっている。
この基本方針について、近年の有機農業をめぐる国内外の情勢等を踏まえ、今後とも有機農業を推進する観点から、以下のとおり変更する。
第1 有機農業の推進に関する基本的な事項
有機農業推進法において、有機農業は農業の自然循環機能を大きく増進し、農業生産に由来する環境への負荷を低減するものであるとされている。近年、有機農業が生物多様性保全や地球温暖化防止等に高い効果を示すことが明らかになってきており、その取組拡大は農業施策全体及び農村における国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成にも貢献するものである。
また、有機農業により生産される農産物やその加工品(以下「有機食品」という。)の国内市場が拡大するとともに、輸出量も増加しており、こうした国内外の有機食品市場に対し国産による安定供給を推進することは、需要に応じた生産供給や輸出拡大を図る農業施策上において重要である。また、近年多発する災害や新型コロナウイルスなどの感染症のまん延といった不測の事態による経済活動への影響等の懸念に対しても、その状況を的確に把握し、しっかりと対応しなければならない。
今後、このような我が国の農業施策の推進に貢献する有機農業の特徴に鑑み、農業者その他の関係者及び消費者の協力を得つつ、有機農業の生産拡大とともに、有機食品市場に対する国産の供給割合(以下「国産シェア」という。)の拡大が図られるよう、有機農業の推進に関する各種の関連施策を実施するものとする。
1 有機農業の生産拡大に向けた取組の推進
近年、農業に新たに参入する者のうち約2割の者が有機農業に取り組むなど新たに有機農業に取り組もうとする者が相当数存在しているものの、有機農業では多くの場合、病虫害の発生等に加え、労働時間や生産コストの大幅な増加を伴うことから、有機農業の生産拡大に向けては、新たに有機農業に取り組む者を含め、農業者が有機農業に容易に従事することができるよう人材育成に向けた取組を推進することが重要である。
また、有機農業の生産技術の共有化や有機食品市場への出荷の安定化等を円滑に進めるとともに、有機農業を通じた地域振興につなげていくため、農業者その他の関係者が有機農業により生産される農産物の生産、流通、販売又は利用の確保・拡大に積極的に取り組むことができるよう、地方公共団体や農業団体等と連携し、「有機の里づくり」などの産地づくりを推進することが重要である。
2 有機食品の国産シェア拡大に向けた取組の推進
国内外で拡大する有機食品市場に対する国産シェアの拡大を図るためには、消費者が更に容易に国産の有機食品を入手できるよう、有機農業者や農業団体等と、有機食品の流通業者、加工業者、販売業者等実需者とが連携・協力することによって、
① 実需者等のニーズに即した広域流通(生産者と消費者・実需者との間に流通業者等の第三者を介在させることによって、主として広域を対象として行われる流通をいう。以下同じ。)
② 地産地消(国内の地域で生産された農林水産物(食用に供されるものに限る。)をその生産された地域内において消費すること(消費者に販売すること及び加工することを含む。)をいう。以下同じ。)等の地域内流通(流通業者等の第三者を介在させずに、生産者と消費者・実需者が直接取引することにより行われる地域内での流通をいう。以下同じ。)
③ 海外への輸出
等を推進し、販路開拓や流通の合理化等による販売機会の多様化を図ることが重要である。
また、有機農業者その他の関係者と消費者や実需者が連携し、
① 日本農林規格等に関する法律(昭和25年法律第175号。以下「JAS法」という。)に基づく有機農産物等の表示への理解の増進や有機農産物等の適正な表示の確保による消費者の有機農産物等に対する信頼の確保
② 食育、地産地消、産消提携(農業者と消費者とが農産物の取引に係る事前契約(提携)を行い、その契約に基づき農産物を相対で取引する仕組みをいう。以下同じ。)、農業体験学習又は都市農村交流等の取組を通じた消費者と有機農業者その他の関係者との交流・連携
③ 有機農業の特徴についての消費者への訴求
等を通じ、有機農業に対する消費者の理解の増進及び国産品に対する需要の喚起を行うことが重要である。
農業者その他の関係者の自主性の尊重
有機農業の推進に当たっては、我が国における有機農業が、これまで、有機農業を志向する一部の農業者その他の関係者の自主的な活動によって支えられてきたことを考慮し、これらの者及び今後有機農業を行おうとする者の意見が十分に反映されるよう取組を進めてきたところであり、今後も、地域の実情や農業者その他の関係者の意向への配慮がないままに、これらの者に対し、有機農業により生産される農産物の生産、流通又は販売に係る各種取組が画一的に推進されることのないよう留意する。
第2 有機農業の推進及び普及の目標に関する事項
1 目標の設定の考え方
国は、地方公共団体と連携するとともに、農業者や事業者その他の関係者の協力を得て、有機農業推進法に定める基本理念及び本基本方針の第1の有機農業の推進に関する基本的な事項に即して、有機農業の生産拡大と国産シェアの拡大を図るよう努めることとする。
このため、有機農業の推進及び普及の目標として、国内外での有機食品の需要見通しを踏まえ、我が国における有機食品の消費及び有機農業の生産に係る目標を次のとおり定める。
この需要見通し及び目標については、生産及び消費の変動の短期的な影響ではなく長期的な動向を評価する必要があることを考慮し、10年後(2030年(令和12年))を目標年として設定する。
2 有機食品の需要見通し
国内の有機食品の需要見通しについては、2009年(平成21年、約1,300億円)及び2017年(平成29年、約1,850億円)の国内有機食品市場の推計額を前提に、2030年(令和12年)に3,280億円と設定する。
また、我が国からの有機食品の輸出見通しについては、有機同等性の仕組み等を利用した輸出実績等を前提に、2030年(令和12年)に210億円と設定する。
3 有機農業の推進及び普及の目標
⑴ 有機食品の消費に係る目標
有機食品の需要見通しに対し、国産の農産物等を安定的に供給していく役割を達成するために、有機食品市場に対する国産シェアを拡大する目標を設定する。有機食品の国産シェアは近年上昇しており、2017年(平成29年)では約60%(推計値)となっていることから、この上昇傾向を維持し、2030年(令和12年)には84%にすることを施策目標とする。
この施策目標の実現に向けて行う、消費者の理解の確保等の有機食品の消費に係る各種施策の取組状況について、有機食品を週1回以上利用する消費者の割合で評価することとし、2017年(平成29年)に17.5%であるこの割合を、2030年(令和12年)には25%に引き上げる取組目標を設定する。
⑵ 有機農業の生産に係る目標
有機食品の需要見通し及び消費に係る目標を達成するため、この需要に対応して国内における有機農業の取組面積を拡大する目標を設定する。国内における有機農業の取組面積は、2017年(平成29年)には約23.5千haとなっており、需要見通し等を踏まえ、2030年(令和12年)には63千haとすることを施策目標とする。
この施策目標の実現に向けて、有機農業に取り組む個々の農業者の経営規模を一律に拡大することは容易ではないことを踏まえ、有機農業に取り組む農業者の確保が不可欠であることから、人材育成に関する取組状況について有機農業者数で評価することとし、2009年(平成21年)に11.8千人であった有機農業者数を、2030年(令和12年)には36千人に増やす取組目標を設定する。
第3 有機農業の推進に関する施策に関する事項
1 施策の考え方
第2に示した目標達成に向けて各種推進施策を講じていく際には、有機食品を利用する消費者等に分かりやすく、また、農業者にも分かりやすい施策を講じていく必要がある。
コーデックス委員会が国際的に定めるガイドラインに準拠した有機農業が各国で行われており、これらの取組が、生物多様性保全や地球温暖化防止等に高い効果があるとのエビデンスが近年明らかにされてきているところであり、有機農業を自然循環機能の増進やSDGsの達成に貢献するものとして推進し、その特徴を消費者に訴求していくためには、我が国においても、各国と同水準以上の有機農業を推進することが重要となる。
また、有機農業の取組水準を一定以上として推進することは、産地においては農業者間の栽培技術の共有等を容易にし、円滑な人材育成や産地づくりにつながるものである。
さらに、農業者が有機JAS認証を取得するかしないかについては、農業者の販売戦略や経営判断によるものであることを前提としつつも、取引先のニーズ等を踏まえ、必要に応じ有機JAS認証を容易に取得できる環境をつくることは、販売機会の多様化の面で有益である。
こうしたことから、国は、人材育成、産地づくり、販売機会の多様化、消費者の理解増進に関する施策の推進に当たって、国際的に行われている有機農業と同等性が認められている有機JASに定められた取組水準(以下「国際水準」という。)以上の取組を推進し、その支援に努めるものとする。
他方、有機農業の取組は、地域の実情や農業者その他の関係者の意向に配慮し、各種取組が画一的に推進されることのないよう留意することが重要であることから、有機農業に関する調査や技術開発等、民間団体等が有機農業の推進のために行う多様な活動については、国際水準に限らず幅広く施策の対象とし、必要な支援に努めることとする。
2 有機農業の生産拡大に向けた施策について
⑴ 有機農業者の人材育成に関する施策
有機農業を行おうとする新規就農希望者や慣行農業から有機農業へ転換しようとする者など新たに有機農業を行おうとする者及び有機農業に取り組む生産者に対し、以下のような人材育成の取組を推進し、農業者が容易に有機農業に従事することができるように努める。
① 新たに有機農業を行おうとする者に対する施策
国は、地方公共団体と連携するとともに、関係団体や関係者の協力を得て、新たに有機農業を行おうとする者が円滑に有機農業を開始できるよう、有機農業向けの就農相談機会の設定、農業大学校や民間団体、農業者等と連携した研修機会の拡大、新規就農者等のための経営計画の作成や就農しようとする青年の研修及び経営の確立までの各種の支援策を活用した支援に引き続き努める。
また、これらの者が新たに有機農業を開始する際には、販路確保に資する有機JAS制度等に関する研修機会を提供すること等により、有機農業に容易に従事できるよう技術的・経営的サポートに努め、有機農業への参入のハードルを下げていくこととする。
② 有機農業の取組に対する施策
国は、地方公共団体を通じ、堆肥等生産施設、種子種苗生産供給施設、集出荷貯蔵施設等の共同利用施設の整備や農業機械の導入等の推進に引き続き努めるとともに、環境保全型農業直接支払制度の活用により、国際水準の有機農業に取り組む者の支援に引き続き努める。
また、国は、地方公共団体と連携するとともに、農業者や事業者その他の関係者の協力を得て、地域における有機農業に関する技術の実証及び習得、有機の種子又は苗等の確保を図るための採種技術の講習など有機農業の技術的なサポートや、優良な取組の情報発信の取組への支援に引き続き努める。
さらに、国は、有機農業を行う際に必要な農地の地力向上のため、土壌専門家の活用や土壌診断データベースの構築等を推進し、科学的データに基づく土づくりを実施できる環境の整備を図るとともに、都道府県において、国際水準の有機農業の取組や有機JAS制度等について、農業者に指導及び助言を行うことのできる指導員の育成や、指導員による現地指導、手引きの作成等生産現場における普及指導体制の整備が進むよう必要な支援に努める。
⑵ 有機農業の産地づくりに関する施策
国は、地方公共団体と連携するとともに、農業者や事業者その他の関係者の協力を得て、農業者その他の関係者が有機農業により生産される農産物の生産、流通、販売又は利用の確保・拡大に積極的に取り組むことができるよう、産地づくりの推進に努める。
特に、有機農業の拡大に当たっては、地域でのまとまった取組が重要であることから、有機農業者のネットワークづくりによる品目や集出荷ロットの拡大、生産技術の習得、集出荷の合理化、販路開拓等を通じ、安定的でニーズに応じた生産や供給体制を備えた有機ビジネス実践拠点の育成・
強化や取組事例の情報発信に努めるとともに、人・農地プランの実質化その他の地域の話合いによる有機農業の取組方針の決定、農地中間管理機構(農地バンク)の借受公募における有機農業ニーズの把握、耕作放棄地等をまとめて有機
JASほ場に転換する試行的取組等を通じ、有機農業に適した農地の確保、団地化を推進するよう努める。
また、有機の里づくりなどの有機農業を核とした地域農業の振興を全国に展開していくため、有機農業を活かして地域振興につなげている地方公共団体の相互の交流や連携を促すためのネットワーク構築、自治体と事業者等との連携の促進に努める。
3 有機食品の国産シェア拡大に向けた施策について
⑴ 有機食品の販売機会の多様化に向けた施策について
消費者の需要が高度化し、多様化する中で、国内外で拡大する有機食品市場に対し我が国の有機農業により安定供給を図っていくため、国は、地方公共団体と連携するとともに、農業者や事業者、その他の関係者の協力を得て、以下のような販売機会の多様化の取組を推進し、消費者や実需者が更に容易に国産の有機食品を入手できるような環境づくりに努める。
① 農産物の流通・加工・販売に関する施策
有機農業者や農業団体等に対し、有機農業の取組やその特徴、有機農産物の利用・消費の動向等に関し、消費者や実需者との間で積極的な情報の受発信を行うよう促すとともに、有機食品に対する多様な需要を踏まえ、インターネットの利活用、外食・中食業者、医療・福祉・化粧品業界その他の様々な業界との連携による多様な販路の確保が行われるよう、働き掛けに引き続き努める。
また、流通・加工・販売に関わる事業者や実需者と有機農業者や農業団体等との間の意見交換や商談の場の設定、実需者との円滑な商談の支援や、有機農業で生産される農産物やその加工品の物流の合理化に向けた実証や成果の普及の取組など両者の一層良好な関係構築を通じて、卸売市場、インショップや直売所等の多様な売り場が確保・拡大されるように働き掛けに引き続き努めるとともに、有機加工食品の規格及び取組事例等に関する講習会の開催や6次産業化や地場加工業者等と連携した農商工等連携の取組を通じ、加工需要拡大に努める。
さらに、有機農業者のネットワークづくりによる集出荷ロットの拡大、生産技術の習得、販路開拓等を通じ、安定的でニーズに応じた生産や供給体制を備えた有機ビジネス実践拠点を育成・強化するとともに、集出荷貯蔵施設等の産地の基幹施設の整備などの推進に努める。
加えて、海外での有機食品需要の高まりに対応し、有機食品の輸出に取り組む事業者の有機JAS認証取得、輸出向け商談等の推進に努める。
② 有機JAS認証を取得しやすい環境づくり
農業者が有機JAS認証を取得するかしないかについては、農業者の販売戦略や経営判断によるものであることを前提としつつ、取引先のニーズ等を踏まえ、必要に応じ有機JAS認証を容易に取得できる環境づくりとして、農業者、流通・加工・小売事業者など多様な関係者に対し、JAS法に基づく有機農産物の日本農林規格(平成17年10月27日農林水産省告示第1605号)等の知識の習得及び制度の活用を積極的に働き掛けるとともに、有機加工食品の規格や取組事例に関する講習会の開催等を通じ、国産有機農産物の加工需要の拡大に向けた取組に努める。
また、新たに有機農業に取り組む農業者に対し、有機JASの制度に関する研修機会を提供する等により、新規参入者の技術的・経営的サポートに努めるとともに、都道府県を通じ、国際水準の有機農業の取組や有機JAS制度等について農業者に指導及び助言を行える人材の育成や、生産現場における指導体制の整備に努める。
国は、認証の取得に係る手続の簡素化に引き続き努めるとともに、認証取得に関する各種情報提供など、有機認証を取得する際の農業者の負担が軽減されるよう努める。さらに、有機JASなど関連する制度等について分かりやすく整理・体系化するとともに、消費者がより合理的な選択ができるよう必要な見直しを行う。
⑵ 消費者の理解確保に向けた施策
国は、地方公共団体と連携し、また農業者や実需者その他の関係者等の協力を得て、我が国の有機農業や表示制度に対する消費者の理解と関心、信頼の確保を図るため、有機農業者と消費者との連携を基本としつつ、以下のような有機農業に対する消費者の理解の増進等の取組を推進し、国産有機食品に対する需要が喚起されるよう努める。
① 消費者の理解と関心の増進に関する施策
インターネットの活用やシンポジウムの開催による有機農業に関する情報の受発信、資料の提供、優良な取組を行った有機農業者の顕彰等を通じ、自然循環機能の増進、環境への負荷の低減、生物多様性の保全等の有機農業の有する様々な特徴についての知識の普及啓発を行うとともに、有機農業により生産される農産物の生産、流通、販売及び消費に関する情報の提供に引き続き努める。その際、民間団体等による消費者の理解と関心を増進するための自主的な活動を促進するため、優良な取組についての顕彰及び情報の発信に引き続き取り組む。また、JAS法に基づく有機農産物の検査認証制度や農産物の表示ルール、GAPや特別栽培農産物の表示ガイドライン等との相違等について、消費者や関係者への普及啓発に引き続き努める。
また、有機農業や有機食品に関わる多様な民間事業者に対し、有機農業や表示制度等の研修や、生物多様性保全等SDGs達成への貢献に係る社会的・経済的効果の情報提供を行うこと等により、有機農業が、地域活性化や雇用なども含む、環境に配慮した消費行動(エシカル消費)につながる取組であることを消費者に分かりやすく伝える者を増やし、消費者の理解や関心を増進する機会を増やすよう努める。
② 有機農業者と消費者の相互理解の増進に関する施策
食育、地産地消、産消提携、農業体験学習又は都市農村交流等の活動との連携、児童・生徒や都市住民等と有機農業者とが互いに理解を深める取組の推進に引き続き努める。その際、民間団体等による有機農業者と消費者の相互理解を増進するための自主的な活動の促進、これらの者による優良な取組についての顕彰及び情報の発信に引き続き努める。
また、有機農業を活かして地域振興につなげている地方公共団体の相互の交流や連携を促すためのネットワーク構築を推進し、学校給食での有機食品の利用など有機農業を地域で支える取組事例の共有や消費者を含む関係者への周知が行われるよう、必要な支援に努める。
さらに、国産の有機食品を取り扱う小売事業者や飲食関連事業者と連携し、国内の有機農業の取組や国産の有機農産物に対する消費者の理解が得られるよう、国産の有機食品需要を喚起する取組の推進に努める。
また、有機農業や有機食品に関わる多様な民間事業者に対し、有機農業の取組等の研修や情報提供を行うこと等により、幅広い関係者が連携して有機農業の価値を消費者に分かりやすく伝える取組を展開できる環境づくりに努める。
4 技術の開発と普及の促進
国は、国立研究開発法人、都道府県、大学、有機農業者、民間団体等で、開発、実践されている様々な技術を探索するとともに、これらの者や団体等に対し、雑草対策等の有機農業の栽培技術や有機農業向けの育種など有機農業に関する技術開発、実践されている様々な技術の科学的な解明に取り組むよう引き続き働きかける。
また、都道府県等に対し、これらの技術を有機農業の実態を踏まえ適切に組み合わせること等により、地域の気象・土壌条件等に適合し、品質や収量を安定的に確保できる技術体系を確立することや、新技術の導入効果や適用条件の把握に向けた実証試験等に取り組むよう引き続き働きかける。
また、国及び地方公共団体は、有機農業の経営の安定に資するよう、例えば、土づくりや有機農業者が使いやすい栽培管理及び機械化技術等を組み合わせた技術体系の開発等、有機農業の推進に関する研究課題や、有機農業者等の技術ニーズを的確に把握し、それを国立研究開発法人、地域の試験研究機関、大学、有機農業者、民間団体等における取組に反映させるよう働きかける。
国及び地方公共団体は、全国各地の有機農業の取組実態や農業者の意向を踏まえ、地域条件への適合化技術、省エネ技術及び低コスト化や軽労化につながる除草や防除の機械化技術等に関する研究成果情報の提供に努めるとともに、地域の実情に応じ、試験研究機関、関係機関、有機農業者及び民間団体等と連携・協力した技術実証や地域での研修、情報提供等を通じ、研究開発の成果の普及に引き続き努める。その際、農業者に指導及び助言を行うことができる人材の育成や生産現場における指導体制の整備の取組との連携が図れるよう情報共有に努める。
5 調査の実施
国は、有機農業により生産される農産物の生産、流通、販売及び消費の動向等の基礎的な情報、有機農業に関する技術の開発・普及の動向、生物多様性保全等SDGs達成への貢献に係る社会的・経済的効果、地域の農業との連携を含む有機農業に関する取組事例、諸外国における動向その他の有機農業の推進のために必要な情報を把握するため、必要な調査を実施し、その成果を施策の検討に活用するとともに、幅広く分かりやすい情報の発信に努める。
6 国及び地方公共団体以外の者が行う有機農業の推進のための活動の支援
国は、地方公共団体と連携し、有機農業の推進に取り組む民間団体等に対し、情報の提供、指導、助言その他の必要な支援を行うとともに、これらの者と連携・協力して有機農業の推進のための活動を効果的に展開できるような所要の体制の整備に引き続き努める。
また、これらの民間団体等による自主的な活動を促進するため、優良な取組の顕彰及び情報の発信に引き続き努める。
7 国の地方公共団体に対する援助
国は、都道府県に対し、有機農業推進法第7条第1項に基づき都道府県が定める有機農業の推進に関する施策についての計画(以下「推進計画」という。)の改正及び推進計画のより効果的な実施を働き掛けるとともに、必要な情報の提供、指導及び助言に努める。
また、有機農業を活かして地域振興につなげている地方公共団体の相互の交流や連携を促すためのネットワーク構築を推進し、地方公共団体による有機農業の推進に関する施策の策定及び実施に関し、必要な情報の提供、指導及び助言に努める。
国は、有機農業に関する全国の動向、有機農業の意義や実態、有機農業の推進に関する施策の体系、有機農業が地域に果たす役割を理解するための先進的な取組事例等、有機農業に関する各種情報の収集、提供に努める。
第4 その他有機農業の推進に関し必要な事項
1 関係機関・団体との連携・協力体制の整備
国は、有機農業の推進に関する施策を計画的かつ一体的に推進し、施策の効果を高めるため、有機農業・有機食品の生産、流通、加工、販売、消費の各段階の施策を担当する者の資質の維持・向上や有機農業に関する各種知見の習得に向け、有機農業の意義や実態、有機農業への各種支援施策に関する知識及び有機農業に関する技術等を習得させるための情報の収集・提供等を含め、関係機関の連携の確保に引き続き努め、地方公共団体にも同様の取組を働きかける。
また、国は、有機農業の推進に関する取組について、農業者その他の関係者及び消費者の理解と協力を得るとともに、有機農業者や民間団体等が自主的に有機農業の推進のための活動を展開している中で、これらの者と積極的に連携するため、全国的に、また、各地域において、有機農業者や民間団体、流通業者、販売業者、実需者、消費者、行政機関及び農業団体等と連携・協力して、有機農業の推進に取り組むよう努め、地方公共団体にも同様の取組を働きかける。
さらに、国は、有機農業に関する技術の研究開発についても、全国の研究機関等に加え、有機農業者を始めとする民間団体等においても自主的な活動が展開されており、これらの民間団体等と積極的に連携・協力することにより効果的に技術開発を行うことが期待できることを踏まえ、全国、各地域において、国立研究開発法人を始め、地方公共団体、大学、民間の試験研究機関、有機農業者等と連携・協力し、研究開発に関する意見交換、共同研究等の場の設定、研究状況の把握、関係者間の情報共有など、研究開発の計画的かつ効率的な推進に引き続き努め、地方公共団体にも同様の取組を働き掛ける。
2 有機農業者等の意見の反映
国は、有機農業の推進に関する施策の策定に当たっては、有機農業により生産される農産物の生産、流通、販売及び消費の状況を踏まえて施策等の検討を行うとともに、意見公募手続の実施、現地調査、有機農業者等との意見交換、会議その他の方法により、有機農業者その他の関係者及び消費者の当該施策についての意見や考え方を積極的に把握し、これらを当該施策に反映させるよう努め、地方公共団体においても同様の取組が行われるよう働き掛ける。
3 基本方針の見直し
この基本方針は、有機農業推進法で示された基本理念及び有機農業の推進に関する施策の基本となる事項に従い、基本方針の策定時点での諸情勢に対応して策定したものである。
しかしながら、今後、有機農業を含めた農業を取り巻く情勢や有機食品を取り巻く情勢も大きく変わることが十分考えられる。また、目標の達成状況や施策の推進状況等によっても、基本方針の見直しが必要となる場合が考えられる。
この基本方針では、作況や経済情勢の短期間の傾向だけでなく、長期的な生産・消費の動向を評価する必要があることから、10年後(2030年(令和12年))を目標年度として目標を設定しているところであるが、この達成状況について随時確認するとともに、農業全体の様々な計画の見直しの状況を踏まえ、5年後を目途に中間評価を行い、見直しを検討する。
有機農業の推進に関する法律
平成18年法律第112号
(目的)
第1条 この法律は、有機農業の推進に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責
務を明らかにするとともに、有機農業の推進に関する施策の基本となる事項を定めることによ
り、有機農業の推進に関する施策を総合的に講じ、もって有機農業の発展を図ることを目的と
する。
(定義)
第2条 この法律において「有機農業」とは、化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこ
と並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷
をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業をいう。
(基本理念)
第3条 有機農業の推進は、農業の持続的な発展及び環境と調和のとれた農業生産の確保が重要
であり、有機農業が農業の自然循環機能(農業生産活動が自然界における生物を介在する物質
の循環に依存し、かつ、これを促進する機能をいう。)を大きく増進し、かつ、農業生産に由
来する環境への負荷を低減するものであることにかんがみ、農業者が容易にこれに従事するこ
とができるようにすることを旨として、行われなければならない。
2 有機農業の推進は、消費者の食料に対する需要が高度化し、かつ、多様化する中で、消費
者の安全かつ良質な農産物に対する需要が増大していることを踏まえ、有機農業がこのような
需要に対応した農産物の供給に資するものであることにかんがみ、農業者その他の関係者が積
極的に有機農業により生産される農産物の生産、流通又は販売に取り組むことができるように
するとともに、消費者が容易に有機農業により生産される農産物を入手できるようにすること
を旨として、行われなければならない。
3 有機農業の推進は、消費者の有機農業及び有機農業により生産される農産物に対する理解
の増進が重要であることにかんがみ、有機農業を行う農業者(以下「有機農業者」という。)
その他の関係者と消費者との連携の促進を図りながら行われなければならない。
4 有機農業の推進は、農業者その他の関係者の自主性を尊重しつつ、行われなければならな
い。
(国及び地方公共団体の責務)
第4条 国及び地方公共団体は、前条に定める基本理念にのっとり、有機農業の推進に関する施
策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
2 国及び地方公共団体は、農業者その他の関係者及び消費者の協力を得つつ有機農業を推進
するものとする。
(法制上の措置等)
第5条 政府は、有機農業の推進に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置そ
の他の措置を講じなければならない。
(基本方針)
第6条 農林水産大臣は、有機農業の推進に関する基本的な方針(以下「基本方針」という。)
を定めるものとする。
2 基本方針においては、次の事項を定めるものとする。
一 有機農業の推進に関する基本的な事項
二 有機農業の推進及び普及の目標に関する事項
三 有機農業の推進に関する施策に関する事項
四 その他有機農業の推進に関し必要な事項
3 農林水産大臣は、基本方針を定め、又はこれを変更しようとするときは、関係行政機関の
長に協議するとともに、食料・農業・農村政策審議会の意見を聴かなければならない。
4 農林水産大臣は、基本方針を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表し
なければならない。
(推進計画)
第7条 都道府県は、基本方針に即し、有機農業の推進に関する施策についての計画(次項にお
いて「推進計画」という。)を定めるよう努めなければならない。
2 都道府県は、推進計画を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表しなけ
ればならない。
(有機農業者等の支援)
第8条 国及び地方公共団体は、有機農業者及び有機農業を行おうとする者の支援のために必要
な施策を講ずるものとする。
(技術開発等の促進)
第9条 国及び地方公共団体は、有機農業に関する技術の研究開発及びその成果の普及を促進す
るため、研究施設の整備、研究開発の成果に関する普及指導及び情報の提供その他の必要な施
策を講ずるものとする。
(消費者の理解と関心の増進)
第10条 国及び地方公共団体は、有機農業に関する知識の普及及び啓発のための広報活動その
他の消費者の有機農業に対する理解と関心を深めるために必要な施策を講ずるものとする。
(有機農業者と消費者の相互理解の増進)
第11条 国及び地方公共団体は、有機農業者消費者の相互理解の増進のため、有機農業者と消
費者との交流の促進その他の必要な施策を講ずるものとする。
(調査の実施)
第12条 国及び地方公共団体は、有機農業の推進に関し必要な調査を実施するものとする。
(国及び地方公共団体以外の者が行う有機農業の推進のための活動の支援)
第13条 国及び地方公共団体は、国及び地方公共団体以外の者が行う有機農業の推進のための
活動の支援のために必要な施策を講ずるものとする。
(国の地方公共団体に対する援助)
第14条 国は、地方公共団体が行う有機農業の推進に関する施策に関し、必要な指導、助言そ
の他の援助をすることができる。
(有機農業者等の意見の反映)
第15条 国及び地方公共団体は、有機農業の推進に関する施策の策定に当たっては、有機農業
者その他の関係者及び消費者に対する当該施策について意見を述べる機会の付与その他当該施
策にこれらの者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする。
附則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から施行する。
(食料・農業・農村基本法の一部改正)
2 食料・農業・農村基本法(平成11年法律第106号)の一部を次のように改正する。
第40条第3項中「及び食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(平成12年法律第
116号)」を「、食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(平成12年法律第116
号)及び有機農業の推進に関する法律(平成18年法律第112号)」に改める。
(農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律の一部改正)
3 農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律(平成18年法律第88
号)の一部を次のように改正する。
附則第9条中第40条第3項の改正規定を次のように改める。
第40条第3項中「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(平成12年法律第116
号)」の下に「、農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律(平成1
8年法律第88号)」を加える。
日本有機農業研究会
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